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朗読台本

【朗読台本】黒田くん【5分】

作者:井戸乃くらぽー twitter

実績:https://twpf.jp/crapaud_writer

脚本:はりこのトラの穴を確認する

※こちらは寄稿作品です。台本作者は井戸乃くらぽー先生です。

黒田くん/井戸乃くらぽー

SE:目覚まし時計の音

まただ。また、覚えのないアラーム。
それは、誰でも経験するようなことではなかっただろうか。思い起こせばとても小さな、事件とも言えない発端だった。

うちでは、時々ものが無くなっていることがある。特に貴重品とか、現金の類ではない。
ごく普通の、たとえばペンとか、スプーンとかだ。そして、永遠に消えてしまったということでもない。気づくと元の場所にちゃんと収まっているのだ。驚くことには、見慣れない他のものまで増えていることすらある。

ある日、またフォークが一本無くなった。これもいつの間にか増えていたものだが、増えると得した気分になるだけなので特に考えることはなかった。そしてまた消えたなら、それは「あるべきところ」に帰ったのだろう、と私は思うことにしていた。

「物品移動現象、っていうらしいよ」
「なにそれ」

黒田くんが怪訝そうな顔をする。

「ネットで調べてみたんだけどさ」
「戻ってくるから、泥棒じゃないんだ」
「原因は、いろいろだって。座敷童とか、心霊とか……」
「それ、信じてるの?」
「いや……。でも、深くは追求しないことにした」
「カメラとか仕掛けてみれば? 台所に」

言われてもしないのは怖がりだと黒田くんに揶揄われるのが嫌で、家に帰ってからペット用の小さなモニターカメラを注文してみた。

SE:目覚まし時計の音

数日後。また覚えがないアラームで目覚める。
台所の抽斗を開けると、前に消えた筈のフォークは戻っていた。しかも、見知らぬナイフを連れて。

「物品移動現象、っていうらしいよ」
「へえ」

宮下さんが眩しそうに笑う。

「ネットで調べてみたんだけどさ」
「よくある話なんだ」
「原因は、いろいろだって。座敷童とか、心霊的なものとか……」
「じゃあ、カメラとか仕掛けてみたらいいじゃない」

なんだろう、この会話。前にも言われた気がする。
カメラは、まだ仕掛けてないはずだ。
……いや、仕掛けたはずだ。誰かに揶揄われるのが嫌で……。
それは、今日一緒にいた人じゃなかった。この世界には、恐らく私の知っているその人はいないのだ。

家に帰ってからペット用の小さなモニターカメラを注文する。ネットの注文履歴には何も残っていない。

そのカメラに何が映るのか、既に興味はなかった。
このアラームをセットすれば、もう一度世界が変わるのだろうか。フォークが消えていた先の、「あるべきところ」に。
あの人がいるかもしれない世界に。
私は手の中の置き時計を見つめていた。

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