※こちらは寄稿作品です。台本作者は或 頁生(ある ぺじお)先生です。
おひめさまとゆきあひる(お姫さまと雪あひる)/或 頁生
我が家の小さなお姫さまが、生まれて初めておねだりしたのが、ほかならぬこのボク。
彼女が生後半年を数えたその日は、雨上がりの陽射しに照らされた、近所の紫陽花が綺麗だったそうだよ。
おっと…自己紹介を忘れていました。
ボクの名前は「があきち」。
パパがそう呼び始めたことで、なし崩し的にそう決まったみたい。
昭和チックで雪だるまみたいな、薄茶色のあひるのぬいぐるみさ。
やがてクリスマスからお正月を迎える頃には、お姫さまから片時も解放されることのない…いえいえ、遊んでいただく、大忙しの毎日に。
「があちき」
パパもママも「娘がしゃべった」と大喜びだったけど、このままコンビニの鶏肉みたいな名前に変えられちゃうのかと、内心気が気じゃなかったな。
ある寒い日曜の朝、ベランダ越しに眺めた、白一色の景色と思わぬお客さまに、お姫さまとボクはそろって大興奮。
ボクにそっくりな体型の、全身真っ白な雪あひるさんが、ちょこんとベランダの手摺りの上に舞い降りていたんだ。
おそらく作者のパパが、そっと室内に招き入れてくれたところで、まずは家族そろって記念撮影。
お姫さまは不思議そうにのぞき込んでみたり、小さな指でそっと触れてみたかと思えば、冷たさに驚いて、あわてて引っ込めてみたり。
雪あひるさんは相当な汗っかきらしく、その後はベランダで過ごしてもらったんだけど、昼前には柔らかな冬の陽射しが届き始めてしまってね。
身軽な方が好都合なのか、ずいぶんスリムになった姿を目にしたママが、「帰り支度を始めているわね」って。
ボクは少しでも長く一緒にいたかったんだけど、お姫さまの小さな手に掴まれて身動きが取れず、じたばたするばかり。
その後ようやく解放されて、ママがベランダの扉を開けてくれた時には、雪あひるさんの姿は見当たらず、足下には水溜まりが残っていたんだ。
「また会えるよね」
この家にやってきて初めて、プラスティック製のボクの目から雨粒が溢れ出したかと思ったら、それが『涙』ってヤツだったんだ。
ベランダとの境目の床の上から動けなくて、雪あひるさんを思い出していた次の瞬間、突然身体が浮き上がったんだ。
ママが持ち上げてくれたにしては、床から50センチくらいと、随分低い位置なのが不思議で、身体をひねって振り返ってビックリ!
目の前のお姫さまの笑顔はおなじみだけど…え?う、うそっ!?
「ママ!ママっ!あ、あ、歩いてるよ!目を離しちゃダメだよ!」