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朗読台本

【朗読台本】凪を迎えるその日まで【5分】

凪を迎えるその日まで/筆先ちひろ

凪という言葉は、
風がやみ、波が穏やかになることを言うらしい。
私の心もそうであればいいのに、
それはなかなかに難しく。

右に揺れ、左に揺れ、
ぱっと光が差したかと思えば、
突然に雨が降り出すこともある。

それは通り雨のようなときもあれば、
梅雨のように長引くときもあり。
月に何度かは、雷を伴うこともある。

まるで天気のようだと例えるにしては
晴れているときが笑ってしまうほどに少ない。

海のようだと言うにしても、
どちらかといえば、
それは大しけの日本海に近い。

そういえば、
あちら側の海は新鮮であった。

地面が割れるような雷鳴をまとい、
ぼたぼたと雪が降る。

雷は雨の時に鳴るものだと思っていた。
私が知らぬことなど、
この世に山ほどあるのだろう。
太平洋側ではなかなか目にすることのない景色。
あれには、心が躍った。

この世に生まれた空っぽだった入れ物に、
たくさんの愛情と、たくさんの新鮮を詰め込んで
年相応の入れ物が出来上がった。

そうしていくうちに、新鮮はどんどんと減り
これまでと同じ愛情では物足りなくなり。

満たされぬ入れ物は、
まだ空きの大きな若い入れ物を羨(うらや)んだ。
別の新鮮が詰まった、別の入れ物に焦がれた。

そのようなときは、
雨が降り出す前の真っ黒な雲がもくもくと
体の中をまだかまだかと敷き詰めていくような
そんな感覚であった。

なぎという言葉は、
和(やわ)らぐという漢字を使って、
和ぎ(なぎ)とも書くらしい。

なんでも、さきに「なぎ」という発音があり
そこに漢字を当てていったそうだ。

和らぐという漢字で表す和ぎは、
主に心情に用いられる。

私に和ぎがやってくるのはいつだろうか。

きっとそれは、死ぬ間際……いや、私のことだ。
死ぬ間際まで
ああだこうだといらぬことを考えては
心を荒げているのだろうから
死んでしまったあとにしか、
それはこないのだろう。

ところで。
私のような者にも、
どこか草原の上に立つような
カーテンがふわりと揺れる昼下がりの部屋ような
そのような気分のときもある。

そのようなときを大切にして
そのような気分を与えてくれるモノに感謝を忘れず

それ相応に息ができれば
それでよい。

それでよいと思うときもあれば
それではだめだと
焦がれた別の入れ物を追うときもある。

それでよい。

凪という言葉は、
風がやみ、波が穏やかになることを言うらしい。
私の心もそうであればいいのにと
思うことも度々あるが
それはなかなかに難しく。

大しけの日本海のような劣等も
草原の上に立つような幸福も
この入れ物の内(うち)に入れて
どうにかこうにか舵を取る。

凪を迎えるその日まで。

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