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多人数用声劇台本

【声劇台本2人】三十路な僕らは墓石を超えて【1:1・20分】

人ってさ、有ったものが無くなるときのほうが辛いんだよ。
支えるにしたって、重すぎた。でしょ?

人って若い時と年とってからで色々変わるよねーってのと、若い時にしんどいことあるとしんどいよねーって話。葵の後ろめたさと、翔太の辛さを乗り越えたいい男っぷり、演じていただけたら嬉しいです。

〇登場人物 1:1

葵(あおい):28歳女。東京一人暮らし。高校の頃翔太と付き合っていた。ばっくれるように翔太と別れた(逃げた)のでなんとも言えない後ろめたさを感じている。葵N(ナレーション)兼任。
水谷翔太:28歳男。秋田一人暮らし。18歳の時に母他界。父とはそれ以前に絶縁状況。

〇文字数 約4400文字

〇推定時間 15~20分

〇その他 0:⇒ト書き 訛りの都合上舞台を秋田にしましたが、訛り1か所だけなので、特に秋田にこだわる必要なしです。訛りやすい地域に変えていただいて問題ありません。

三十路な僕らは墓石を超えて/筆先ちひろ

0:   秋田県某パーティ会場にて高校の同窓会。
0:   翔太、葵、共にほろ酔い。

翔太:馬子にも衣裳……。

葵:はぁ?久しぶりに会って言うセリフがそれ?

翔太:痛って!叩くなって。嘘だよ、綺麗、綺麗!

葵M:高校の同窓会。そこで随分と懐かしい顔に再会した。

葵M:水谷翔太、まぁ世に言う元カレというやつで、ジャケットを纏ったその男は、穏やかに笑うようになっていた。

翔太:何年振り?

葵:二十一の時以来だから、うっそ、七年ぶり?どーりで翔太がおっさんになってるわけだ。

翔太:なるほど、葵もおばさんに……って2発目構えんなよ!

葵:グーでいくよ?

翔太:やめやめ、ごめんって! ほんとに綺麗になった。

葵:(ため息)。ちょっと酔ってる?

翔太:まぁ適度に。いつまで秋田にいるの?

葵:来週の火曜。

翔太:3日しかねーじゃん。

葵:ぼちぼち忙しいし。

翔太:ふーん……。東京のオフィスレディー(訛り)って感じだもんな。

葵:何それ、バカにしてる?

翔太:違くて。久しぶりに見たら綺麗になったってことだよ。

葵:馬子にも衣装って言ったくせに。

翔太:それは、ごめんって。ほんとに、綺麗になった。

葵:ありがと……。

翔太:ね、明日暇?

葵:別に何もないけど……。何?

翔太:母さんのさ、墓参り付き合ってよ。葵にも会いたがってるはずだから。

葵M:それを言われてしまうと断れなかった。

葵M:美代ちゃん……翔太のお母さんは私たちが十八のときに亡くなった。

葵M:もう十年も前の話。真っ青な空。じりじりと、空高く太陽が照り付けた夏の日。クーラーがやけに効いた病室で翔太が泣いていた。その光景が酷くアンバランスで、目に焼き付いている。

葵M:そこから翔太は少しずつ変わった。笑顔がぎこちなくなって、ごめんねを繰り返すようになり。

葵M:どう答えるのが正解だったのか、今でも分からない。当然当時の自分になんてもっと分からなくて、高校卒業と同時に東京の大学へ行き、支えきれない翔太の重みから逃げた。

翔太:明日昼過ぎに迎え行くから。

葵:あ、うん……。

葵M:立ち去る背を見てチリっと胸の奥が焼けた。

葵M:他の人を好きになることはできても、この人以上の人なんていなかった。自分から逃げておいて酷い話だ。

0:   翔太、葵、墓石の前。

葵:何話したの?

翔太:久しぶりーとか、そんな。葵は?

葵:まぁ私も元気ー? とか、そんな。

翔太:ふっ。(薄く笑う)

葵:え、何? 笑うとこあった?

翔太:いやさ、こんな墓石に向かって元気かーっておかしな話だよなって。

葵:まぁ……。でも、ほら、向こうで元気にしてますかってことで。

翔太:分かってるよ。俺も元気―? って聞いたし。

翔太:……もう生まれ変わって、ここに居ないかもしれないのにな。

葵:今頃どっか飛んでるかもね。

翔太:ん?

葵:美代ちゃん、次は鳥になりたいって言ってたから。

翔太:鳥ねぇ……。しっかし、懐かしいなその呼び方。

葵:美代ちゃん?

翔太:うん。

翔太:いつの間にか俺より仲良くなってたし。「美代ちゃん」なんて顔してねーのに。

葵:そんなこと言うとまた怒られるよー?

翔太:翔太! あんたいい加減にしなさい! って?

葵:おお似てる、さっすが親子。

翔太:そりゃどーも。

翔太:……あーぁ、なんか腹減ったわ。飯付き合ってよ。

葵:えー。

翔太:えーって……。

葵:私はいいけど、いいの?

翔太:何が?

葵:その……二人でご飯なんか行ったら怒る女の子とか、いるんじゃないの?

翔太:いたら墓参りに誘ってませーん。

葵:おっと、それは失礼致しました。「いい男」なので、女の子の一人や二人いるかと思ったのですが。

翔太:その「いい男」振ったのはどこのどいつだっつーの。

葵:あはは……誰だっけなー忘れちゃった。

翔太:……葵は、いいの?俺と飯食いに行って。

葵:いい人いたらどうすんの?

翔太:飯中止。

葵:おー紳士。

翔太:んで、どーなの?

葵:飯続行です。

翔太:そ。

葵:何がいいかなぁ、翔太のおごり?

翔太:んーじゃコンビニおにぎりな。

葵:やめてよー高校生じゃないんだから。

翔太:鮭のおにぎり買ってやるよ。ちょっと高級なやつ。

葵:せめてラーメン……。

翔太:うそうそ。いいよ、おごり。とりあえず車乗って。

0:   葵、翔太、車に乗る。

翔太:……お前さ、おばさん心配してんだから、もっと帰ってきてやれよ。

葵:仕事忙しいもん。

翔太:正月と盆くらい休みあんだろ。

葵:ないない。うちブラックだし。

翔太:……嘘つくならもっとまともな嘘つけっつーの。

葵:何?なんか言った?

翔太:別に。……そーいや敦、覚えてる?

葵:あー、あの冴えないボンボン。同窓会来てなかったよね?

翔太:海外出張だって。

葵:ほえー。なんかカッコイイね。言ってみたいわ、来週海外出張でさー、とか。

翔太:そうかー?俺は日本でいいわ。

葵:夢がないなぁ。んで、敦がどうしたの?

翔太:あいつの親父さんさ、去年亡くなったんだよ。

葵:そう、なんだ……。

翔太:自分の親っていつまでもピンピンしてそうな気がすんだろ?でも、そーじゃねーんだよ。流石に俺の母さんは早すぎたけど。

葵:……うん。

翔太:ちゃんと顔見せてやれよ。

葵:分かってる。でも、色々あるの、色々……。

翔太:はいはい……。

葵:うっわ、懐かしー。制服変わってないんだねー。ねぇJKだよJK!

翔太:おっさんかよ……。

葵:えー、いいじゃん。若い女の子は可愛いのだよ。あっ、男の子もいるー!夏のYシャツっていいよね。

翔太:中に黒とか赤のTシャツ着たり?

葵:いたいたー! 翔太赤のTシャツ着てたでしょ?

翔太:あー着てたわ。

葵:似合ってなかったなー。

翔太:はぁ?イケてただろ。

葵:もーね、そう思ってんのがヤバい。

翔太:やばいって何だよ。葵の減らず口は相変わらずな。

葵:懐かしいでしょ?

翔太:まーな。昔は自転車で、ニケツして。後ろから文句言われてさー。

葵:……なんかさ、翔太変わった?

翔太:そう? なんで?

葵:なんとなく、なんか笑い方っていうか、顔っていうか。なんか分かんないけど、そんな気がする。

翔太:まぁ葵に振られて七年だからなー。色々あったし、変わりもするよ。

葵:……ごめん。

翔太:ったく、せめてさ、別れたいなら別れたいって連絡くらいよこせよ。

翔太:東京で死んでんじゃねーかと思って心配して探したのにさ、聞いてた住所にもいねーし。

葵:うそ、東京来たの?

翔太:行ったよ。インターホン押したら知らねーおばさん出てくるし。まさか蒸発するなんて思ってもみなかった。

葵:ごめん……ほんと、ごめん。

翔太:まぁでも、しんどかったけど、今は葵が逃げてくれてよかったって思ってるよ。

翔太:あの頃の俺ってさ、親父も親父でとっくに縁切れてたし、そんで母さん死んで。葵に助けてー幸せにしてくれーって、すがってたでしょ。

葵:それは……。

翔太:逃げてくれなかったら、多分、二人してダメになってた。

翔太:母さんが死んだときさ、悲しかったけど少しほっとしたんだよ。あぁやっと終わったって。それに気付いたらすげぇ薄情な生き物に思えてきてさ。自分が許せなくて。

葵:そんなことないでしょ。毎日病院行ってたじゃん。

翔太:行って何してたと思う?

葵:何してたって……看病じゃん。

翔太:ちげーよ。ずーっと謝ってたの。母さんごめん、って。そればっか。

翔太:女手一つで育てて辛い思いばっかさせて、ごめんって。

翔太:毎日、毎日、謝った。その度に悲しい顔してて。

翔太:言うべきはさ……母さんが聞きたかったのは、ありがとうだったんだろうなって、今になって気付いてんだからさ。大バカだよ。

0:間

翔太:こっち帰ってくる度墓参りしてくれてたんだろ?

葵:なんで知ってんの……。

翔太:由香から聞いた。

葵:口止めしてたのに。

翔太:……ありがとな。母さんのことも、俺のことも気にかけてくれて。

翔太:なーんか俺らさ、仲間内でも触れちゃいけないモノみたいになってるじゃん。

葵:まぁ、腫れものみたいっていうか、なんていうか。

翔太:もういい加減にしろって言われてさ。

葵:なにそれ……。

翔太:今回さ、同窓会、由香にしつこく誘われただろ?

葵:ちょ、騙したの?確かに、翔太来ないって言うから来たのにいるし……。

翔太:いや、騙したわけじゃないけど。まぁちょっと協力というかなんというか。んで、墓参りって言えばお前断らないよなーって。

葵:ひど……。

翔太:ごめんって。母さんダシに使ったのは悪かったけど、それだけ俺の中で過去になったってことだよ。

翔太:……十年。

葵:……。

翔太:自分のこと許すのも、まともになるのも、母さん死んでから、十年かかった。

葵:……マザコン。

翔太:ばーか、男なんてみんなマザコンなの。

翔太:一人になっちゃって、あの頃の俺には辛くてさ。

翔太:人ってさ、有ったものが無くなるときのほうが辛いんだよ。

翔太:支えるにしたって、重すぎた。でしょ?

翔太:まぁ、俺ら色々あったけど、これからどうしたいって未来のこと考えたときにさ、葵の顔が浮かぶんだよね。……どう?

葵:どうって……。

翔太:割と大真面目に告白してるんですけど。

葵:それは分かるけど。

翔太:今はさ、もう自分の足で立ってるから。葵がおばさんと上手くいってないのとか、なんかしんどい事とかそういうのも聞いてあげられるし。

翔太:幸せにしてくれーじゃなくてさ、一緒に幸せになろーって。思うんだけど。

葵:……ばかじゃん。逃げ出したの私の方なのに。

翔太:逃がした魚は大きいって言うじゃん。

葵:……ほんとばか。

翔太:まぁバカはお互い様ってことで。

翔太:人って変われるんだよ。俺も変わったし、葵も多分変わっただろ?

翔太:だから、もっかい一からやり直してみない?

葵:私、美代ちゃんのことずっと恨んでたんだよ? 生きてたころも、死んでからも、翔太の事ずっと縛って。

葵:お墓参りだって、もう自由にしてやってくれって、そんな勝手なお願いして……。

翔太:それはなんとなく分かってたよ。

翔太:そういうさ、許せない自分みたいなのもさ、二人で抱えてこうよって言ってるつもりなんだけど。

葵:ばか。なんなの。自分だけいい男になりやがって……。

翔太:いい男になるのに十年かかったけどなー。

葵:遅いんだばか!

翔太:逃げたくせによく言う!

葵:それは……翔太のせいだばか。

翔太:はいはい、もう俺のせいでいいですよ。なんせいい男なんで。

葵:……ほんと、何やってんだろうね私。大バカだ。

翔太:だから、さっきも言ったけどバカはお互い様ってことで。つーかお前すーぐばかばか言うとこは変わってねーのな。

葵:うっさい、ばか。

0:間

葵M:西日に照らされた翔太の横顔は、今までで一番穏やかだった。

葵M:逃げたくせに、それでいて、ずっとずっとこの人の幸せを願っていた。

葵M:別れて七年。お互い三十手前。

葵M:そんな二人がよりを戻すなど、ほんと、どうしようもなくバカで、笑ってしまう。

0:間

翔太:馬子にも衣裳……。

葵:はぁ?花嫁に向かって言うセリフがそれ?

翔太:痛って!叩くなって。嘘だよ、すっげー綺麗。

葵M:私が水谷葵になって、同級生からお前らほんとバカだなって笑われる。それは、もう少し先のお話。

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