絶望、希望、満足、不満、愛憎、軽蔑、空虚に後悔。責任、名誉、嫉妬、執着、幸福、感謝、悲痛に憂鬱。どれもこれも面倒だ。
〇登場人物 不問2
A/B
性別特になし。人ならざる何か。
A:狂笑いあり・B:痛みによる絶叫あり
AB共に一部講談調あり。
〇文字数 約3000字
〇推定時間 10分
〇その他 狂の禍(きょうのか)
0:⇒ト書き
一人芝居の場合キャラ分けしなくてもOKです。作者解釈というか、こちらの台本についてあとがきまとめました。興味があればそちらもどうぞ。
狂の禍/筆先ちひろ
0: 異空間。AとB、リスナー相手に話し始める。
A:やぁやぁ、こんにちは、こんばんは、おはようございます。
A:本日は此のような『つまらぬもの』を聞きにきてくれて、どうもありがとう。
B:ありがとう、ありがとう。
B:声の聞こえの調子は、いかがですかな。
B:何?あまり良くない。これは失礼。では、水を一口失礼しまして。
B:あーあーあー、やぁやぁみなさん。
A:みなさん。みなさん。……ふむ、良さそうだ。
A:さてさて、本日はここへどうやって?
B:車?自転車?電車?徒歩?
B:何?分からない?
A:そうでしょう。そうでしょう。
A:可笑しいねぇ。実に可笑しい。
A:まぁ、そんなことは気にせず……。ん?私が何者か?
B:まぁまぁそんなことも気にせず、一つ話を聞いていきなさいな。
B:耳だけ貸していればいいんだ。簡単だろう?耳だけさ。
A:おいそこの。立ち去ろうとしているのは分かっているんだ。 耳だけでいいと言ったはずだ。
A:それもできないクソ野郎には、少しばかり不幸になる呪い(まじない)をくれてやる。有難く受け取れよ。
B:なーに、少しばかりの不幸だ。
B:足の小指をドアに思いっきりぶつけてしまったり、口に含んだ白米が実は虫だったり、あとはなんだろうなぁ。
B:あぁ、最近この世界ではSNSとかいうのが流行っているらしいな。
A:そうだな、そこでよがり狂っている姿でもバラ撒いてみようか。
B:まぁそんなことさ。小さな、小さな、小さな小さな小さな、小さな、不幸だろう?
A:怯えることはない、耳だけだ、簡単だろう? 耳だけでいいんだよ。聞いていきなさい。
B:では始めよう。
B:
0:間。 A、テンポよく講談でもするかのように。
A:こほん(咳払い)。
A:右へ左へ、左へ右へ。人というのはなかなか、ひとどころにはいられない生きもののようにございます。
A:このひとどころというのはひとっところ、まぁつまり一つの所という意味なのはご存知の通りですが、
A:一人、二人のヒトという字を当てて、人と関わる『ヒトどころ』、とは考えられませんでしょうか。
B:思い出してご覧なさい。
B:あいつが嫌いだ。あいつの考えは間違っている。あいつの何もかもが妬ましい。
A:なんだ、この点数は!もっと勉強しろ!(父親風)
B:君には残念ながらセンスがないねぇ。(教師風)
A:私とあの女と、どっちが大事なのよ!(女声)
B:遺産は渡さない!介護したのは私たちよ!(女声)
A:絶望、希望、満足、不満、愛憎、軽蔑、空虚に後悔。
B:責任、名誉、嫉妬、執着、幸福、感謝、悲痛に憂鬱。
0: 講談調終了。A、発狂。
A:嗚呼アァァァァァ、どれもこれも面倒くさい!
B:お前らクソか、死んじまえ!
0: A、ふと我に返る。
A:あぁちょっと試してみるか。
A:丁度よくここにもう捨てようと思っていた杖があってね。
A:切れ味がいいものよりも、こういう、鈍器のような物のほうが鬱憤(うっぷん)の発散には丁度良い。
B:えっ、ちょ、ちょっと待って……私は、やめ……。
0: A、Bを杖で叩く。コ〇ス勢いで。
A:あはは(狂笑い)、痛いか?気持ちいいか?
A:おや、赤、いや黒か?どす黒いと言うのかなこれは!
B:嗚呼ァァァァーーーー!
B:やめて、ひっ、痛い痛いぃぃぃ。痛いよー! 痛いよ痛いよー。
B:痛くー、ないっ!
B:全く、頭が取れてぐちゃぐちゃじゃないか。どうしてくれるんだ。
B:毎度毎度人の形に戻すのだって楽じゃない。
A:すまない、すまない。ついね。取り乱しが過ぎました。
A:あぁでも、丁度いいじゃないか。この間言っていたあの俳優にでも顔を似せればいいだろう。
B:あぁ!いいねそれ!イケメンイケメン!
A:おっと、失礼、失礼、ごめんなさい。
A:せっかく貴方の耳を借りていたのに、遊んでしまったよ。失礼失礼。
A:
0:間 テンポよく。講談でもするかのように。
B:右へ左へ、左へ右へ。人というのはなかなか、人どころにはいられない生きもののようにございます。
B:まぁ、そんなこんなで、人と寄り添いたいと思う反面、集まれば集まる程に面倒ごとは増えるもので。
B:気が付けば全く違う人のところにいた、なーんてことはよくある話。
A:親子ですらも20年。汗水流して身を削り、上司にへこへこ首(こうべ)を垂れて、育てた子供はでくの坊。
B:あぁ、あぁ泣ける。泣けるねぇ。
A:巣立ってくれればまだ良いが、骨の髄までしゃぶりつき、今日も明日も寝るばかり。そんな子供も多いとか。
A:いっそ一緒に死のうかと、毎夜泣くは母の性(さが)。
A:あぁ、あぁ泣ける。泣けるねぇ。
B:親と言えども人の子だ。子供は親を選べない。
B:愛情どころか金すらよこさず、痛みばかりをよこす鬼。そこに生まれりゃ、生まれたことこそ不幸だと。
B:親子ですらもこうなんだ。他人と分かり合えるはずなど甚だ傲慢、笑えるね。
A:ああ、ああ、どれも面倒だ。
B:絶望、希望、満足、不満、愛憎、軽蔑、空虚に後悔。
A:責任、名誉、嫉妬、執着、幸福、感謝、悲痛に憂鬱。
A:
0:間。 A、B喪失感を出す。
B:なんなんだこの世は。
A:どうして分かり合えないのだ。
A:私は欠陥品なのか?
B:私は人間ではないのか?
A:お前は人間ではないだろう。
B:おっとそうだった。失礼。では、『欠陥品なのか?』から頼むよ。
A:ふむ、仕方ない。
0:間。
A:私は欠陥品なのか?
B:私は……
B:私は何なのだ?
A:何だろうねぇ……? そうだ、そいつに聞いてみてはどうだろう?
B:あぁそうか。そうしよう。第三者の意見は大事だな! おい、そこの君、私は何者か知っているか?
B:……そうか、知らないか。
A:残念だ。残念だよ。
A:これだけの時間を費やしてまだ分からないのか?
A:私は、君だ。君自身だ。
B:私も、君だ。君自身だ。
B:いつまで分からないフリをしているつもりだ。
A:毎日毎日、世界に絶望しているだろう?
A:24時間、365日、春夏秋冬、エブリディ!
A:こんな世界などつまらないと! こんな自分など消えてしまえと! 毎日毎日!
B:毎日毎日、毎日、毎日!
B:さぁ行こう、こんな世界壊してしまおう。
A:私と君で。
B:君と私で。
B:人どころに居る必要などない。人どころに納まる必要などない。
A:私たちは君の狂気だ。そして君の才能だ。
A:さぁ、まずは何から壊そうか。
B:学校、会社、社会に世界! 論理に秩序!
B:全ては君の意のままに。
B:
0:間。 A、B無邪気に。
A:ねぇねぇ、つまんなかったね。
B:ねー大外れ。2、3人ヤって捕まっちゃうし。
A:あぁ、でも最後の『お前ら騙したのか?』って絶望した顔だけは面白かったかな。
B:あはは。確かに。
B:あーぁ、どっかに天変地異でも起こしてくれるようなニンゲンいないかなぁ。
A:……ねぇ、いいのがいる!
B:ん?
A:気付いてないの? ずーっと聞き耳を立ててるのがいるじゃん?
B:あー!そのこと。気付いてるよ!声かけちゃう?
A:かけちゃお!
B:ねぇ、ねぇねぇ! 君!
B:君だよ君。(マイクへ囁くように)。ずーっと聞いてたでしょ?
A:僕たちは悪魔だったり鬼だったり、神って呼ぶニンゲンもいたかなぁ。
A:……まぁ、何でもいいや。
A:君たちがそんな風に呼んでいるモノの類(たぐい)だよ。
A:絶望、希望、満足、不満、愛憎、軽蔑、空虚に後悔。
B:責任、名誉、嫉妬、執着、幸福、感謝、悲痛に憂鬱。
B:こーんなくだらない世界、一緒に壊してみない?
A:僕は君で、君は僕。
B:僕も君で、君は僕。
A:まぁとりあえず、まずは耳だけ貸してくれればいいよ。
B:簡単だろう?それだけさ。
B:全ては君の意のままに。
0:間 A、B語り口調で閉じる。
B:今耳にした二つの『人ならざるモノ』は実在したのか、それとも狂った人間が描いた幻聴なのか。
A:それを知るものは、誰もいない。全ては君の意のままに。