2人用シナリオ『十月の朝顔』より朝美の独白モノローグ抜き出しです。女性視点のモノローグですが、朗読、声劇など性別関係なくどうぞお使いください。
君へ『十月の朝顔』より/筆先ちひろ
夏。私は自宅での生活が困難になった。
病室の冷気が身体に張り付いて、夏らしさなんてこれっぽっちも感じない。
明日か、明後日か、それともこれを思っている次の瞬間か。
私は颯太を忘れてしまう。そしてそのまま死んでしまう。
なんて薄情な女なんだろう。
料理もへったくそで、気も強くて、挙句の果てに颯太を残して死んでしまうなんて。
なんてダメな女なんだろう。
こんな私を愛してくれて、ありがとう。
伝えたいありがとうは山ほどあるのに、それを伝えてしまったら、きっと颯太は私のことを忘れられなくなるだろうから。
だから、伝えないまま、忘れてしまうことにした。
これが颯太の描く脚本だったなら、きっと私は手紙か、ボイスレコーダーに彼へのありがとうを、ありったけ詰め込むのだろう。
でも、私は薄情な女だ。
安い呑み屋で口説かれたことも、
春の鎌倉も、一緒に作っただし巻き卵の味も。
超低気圧を纏った不機嫌な颯太も。
べろんべろんに酔ってパンツで寝ていた颯太も。
忘れてもいいよって泣いてくれた颯太も。
ぜーんぶ忘れる、薄情で合理的な女だ。
そんな女のことなんて忘れて生きてほしい。『十月の朝顔』のあの主人公のように。
あれを書いたから私が病気になったんじゃない。
あれを書いたあなただから、きっと私を忘れて前を向いて生きてくれるから。
だから私たちは巡り逢ったんだと思う。
0: 朝美、手帳をめくる。(ト書き)
『残される方が辛いから、だから前を向くために、僕は君を忘れて生きていく』
『十月の朝顔』 鈴木颯太