【声劇台本】死後の案内人【10分】

 

死後の案内人／筆先ちひろ

0：　　　死後の世界。
0：　　　「私」、とある教習を受け終わった者へ案内を行う。

：はーい、腕出してくださいねー。では、ハンコ失礼しますねー。
：はーい、ぺったん！
：あぁ、ご安心を。生まれ変わるまで何をしても、消えませんので。
：水で洗っても、腕がもげても！
：まぁ腕がもげた場合は、新しい腕が再生され、そこに浮き出ますので、ご安心を！
：
：えーっと、貴方の番号は、
：７億１３万４３３７番！
：ええ、７億１３万４３３７番です！
：
：ココにくる途中の講習会場で説明を受けたと思いますけど、我々も仕事なので、もう一度説明させていただきますね！
：貴方の腕に印字させていただいたこれ、そうそうコレは、生まれ変わりまでの順番待ちの番号です。
：善人も悪人も関係なく、あちら側で死んだ順に番号が振られ、０になった時に、またあちらへ生まれ変わる。
：カウントは自動で動きますので！
：生まれ変わりまであとどれくらいか気になる時は、腕に印字したこの数字を見てくださいねッ！
：それでは逝ってらっしゃーーい！
：
：ん？何かおかしなところでも？
：
：んー腑に落ちないという顔をされていますが……えっと。

0：　　　私、パラパラと書類をめくる

：2019年6月25日
：23時17分46秒、貴方は刃渡り17センチの三徳包丁で……
：あぁ三徳包丁というのは一般家庭でよくみるアレですよ、アレ。その三徳包丁で腹と胸の２か所を刺され、出血性ショックにより死亡。
：出血性ショックというのは、出血によって血液循環量の低下が起こる、循環血液量減少性ショックの一つですね！
：
：えーっと、お相手はストーカー女性。
：貴方がコンビニバイトをしていた時のことだそうです。
：彼女が鞄で商品を引っかけてしまい、バラバラバラ―、落ちる商品！
：そこを「大丈夫ですよー」っと、さわやかな笑顔で助ける貴方！
：きゅぴぴぴぴーーん！　一目惚れ！
：だそーです。それ以外の接点は特になし。
：うわっ……なかなか痛々しい写真ですね？　見ます？いい？　そうですか。まぁご自分で体験したことですもんね。見たくないか。
：えーっと、場所は、東京都調布市の路上、通行人によってもう一名の死体と共に翌日発見され、
：ん？　え？　もういいって？
：すみません、すみません。てっきり、まーだご納得がいっていないのかと思いまして。
：
：たまにいるんですよねー、死んだ事実が受け入れられないお方が。
：こちらとしてはさっさと受け入れて欲しい限りなのですが。
：散々説明があったかと思いますが、あちらとこちらは表裏一体。
：魂の量は常に一定。あちらで人口増加が起これば必然的にこちらで魂が減っている。
：ただ、あちらが増えてばかりも困りますので、自然災害や戦争、致死性ウィルス蔓延などによる調整を行っております。
：そもそも貴方方が認識している、『死』という概念が間違っていると言えば間違っているわけですが、
：まぁそれも我々が与えたものですから。仕方ありませんね。
：あちらとこちらを跨ぐ際に、魂をエネルギーにして通過しないといけない手前、肉体は一度消滅しますし。
：あちらとこちらでは使用する肉体も違いますので、んーむ、貴方方の陳腐な脳に説明するのは難しいですね。
：あーやだやだ、こんな仕事。やってらんねー（ぼやくように）
：あぁ、すみません！何でもありませんよ！なんでも！
：とりあえず、この星ごと我々に飼育されているというわけです。
：
：信じられない、という顔をされていますが、まぁ文明の程度が低いので仕方がない。
：その昔、地球というのは平面だと思われていた。それくらいはご存じですよね？
：よかった。これも知らないと言われたらどうしようかと思いました！
：えーっと、その平面だという概念が、ある日覆り、球体説が提唱され、それが今では必然となっている。
：文明の進化により、これまでの常識が非常識になる瞬間など、ありふれているのです。
：
：いいですか、貴方がこちらで体験するおおよそ80年という時間は、いわばご褒美タイムです。
：あちら側では弱い体、弱い精神を与えられ、どれほどの苦痛に耐えうるのか、我々はそれを観察している。
：しかし、流石にそれも可哀そうなので、こちら側では自由にしていただいている。
：腕がもげようが、頭がもげようが、痛くもない。働く必要もない。好きなことをして、生まれ変わりまでの時を待てばいいのです。
：貴方がたが生きていると認識しているおおよそ80年と、死んだと認識した後の、これから始まる８０年。
：150年～200年をワンセットとし、記憶は保持されます。
：まぁ貴方のような早死のタイプもいるので、一概に150年～200年とは言えないんですけどね。
：
：ごく稀に記憶を持ったまま向こうに行ってしまう輩もいますが、あれはあれで突然変異による興味深い個体なので、摘み取らず、要観察としています。
：えーっとすみません、余計なことをお話しました。
：
：あーほらほら。御覧なさい。あそこに生まれ変わりの順番が来た女がいるでしょう？
：あーぁぁ、あんなに取り乱して。余程向こう側に行くのが嫌らしい。
：キーキーと五月蠅く、まったく、仕事の邪魔ですよほんと。
：貴方は順番がきても、あんな風にはならないでくださいよ。
：あぁ、因みに！
：先ほども、ちらっと言いましたが、向こう側とこちら側の記憶は、生まれ変わり時に自動的に削除されるので、
：これもきっと忘れてしまいますが、悪く思わないでくださいね。
：この星の知的生命体の精神強度ではとてもとても耐えられないようなので、善意でそうしているまでです。
：
：さて、そろそろ次の方の相手をする必要がありますので。
：それでは逝ってらっしゃい！

0：間

：はーい、腕出してくださいねー。では、ハンコ失礼しますねー。
：はーい、ぺったん！
：あぁ、ご安心を。生まれ変わるまで何をしても消えませんので。
：水で洗っても、腕がもげても！まぁ腕がもげた場合は、新しい腕が再生され、そこに自動で印字されますので、ご安心を！
：
：えーっと、貴方の番号は、
：７億１３万４３３８番！
：一応説明受けたと思いますけど、こっちも仕事なので、もう一度説明させていただきますね。
：は？　説明は聞きたくない？　まったく、聞き分けのない人は嫌いですよ。
：
：えーっと。

0：　　　私、ぱらぱらと書類をめくる。

：2019年6月25日
：23時25分13秒、貴方は刃渡り17センチの三徳包丁で腹を刺し出血性ショックにより死亡。
：場所は東京都調布市……おや、あぁ！なるほど、なるほど。
：先ほど貴方が刺した愛しい彼もここを通過していきましたよ。
：大人しく話を聞いていただければ、彼の後をすぐ追えますよ。ちゃーんと話、聞いてくださいね。
：
：こちらの世界では、腕がもげようが、頭がもげようが、痛くもない。働く必要もない。好きなことをして生まれ変わりまでの時を待てばいいのです。
：ん？もう理解したって？随分と物分かりがいいようで、助かります。
：それでは逝ってらっしゃーーい。
：
：上手く合流できると、いいですね。（不気味に）