フリー台本筆先の世界|無料で使える朗読・声劇台本 https://hudesaki.com 無料で使える朗読・声劇台本 Fri, 21 Jul 2023 13:40:34 +0000 ja hourly 1 https://hudesaki.com/wp-content/uploads/2021/05/cropped-筆小-32x32.jpg フリー台本筆先の世界|無料で使える朗読・声劇台本 https://hudesaki.com 32 32 189561747 【声劇台本】真夜中ラジオ第三夜【10分】 https://hudesaki.com/nightradio3 https://hudesaki.com/nightradio3#respond Sun, 27 Mar 2022 08:19:55 +0000 https://hudesaki.com/?p=3001
筆先ちひろ
筆先ちひろ
ほのぼのラジオ風台本です。真夜中ラジオのシリーズものです。順番など関係なくやっていただいて問題ありません。○○○○のところにお名前当てはめて一人称も変えたりして言いやすい口調でどうぞ。BGM付けたりエコーはめたりするとより、それっぽくなるかと思います

構成台本も公開してるので、ラジオやりたいよ~って方はそちらご参考にどうぞ。

【フリー台本】ラジオ用・構成台本ラジオ用の構成台本です。参考にするなどして、お使いください。 ※このページの構成台本についてはクレジット不要です。(そのままじゃ使...
【声劇台本】真夜中ラジオ【10分】 構成台本も公開してるので、ラジオやりたいよ~って方はそちらご参考にどうぞ。 https://hudesaki.com/fr...
【声劇台本】真夜中ラジオ第二夜【10分】 構成台本も公開してるので、ラジオやりたいよ~って方はそちらご参考にどうぞ。 https://hudesaki.com/fr...

真夜中ラジオ第三夜/筆先ちひろ

—タイトルコール—

○○○○の真夜中ラジオ。

—タイトルコール・終—

皆さんこんばんは。○○○○です。

この番組は、なかなか夜寝付けない、誰かの声を聴いて眠りたい、そんな寂しい夜に私、○○○○が寄り添っていこうという番組です。

えー突然なんですが、最近私ASMR(エーエスエムアール)にハマってまして。知ってます?ASMR。

そのままね、アルファベットでエー・エス・エム・アールって書くんですけど、耳かきする音とか、髪の毛を切る音とか、あとお化粧する音とかね、そういう音を、立体音響みたいな感じで聴けるんですよね。

それがね、すっごい心地よくて、なんていうかマッサージされてるような感覚っていうか、なんかリラックスできるんですよね~。動画見て聞いてるだけなんですけどね。不思議……。

興味あったらぜひ「ASMR」検索してみてください。たっくさん動画出てくるので。

それでは始めていきましょう。

—CM—

誰でも気軽に楽しめる「フリー台本・筆先の世界」。あなたの声で彩って。この番組はフリー台本サービス、筆先の世界の提供でお送りします。

—CM・終—

—タイトルコール—

○○○○の真夜中ラジオ。

—タイトルコール・終—

改めましてこんばんは、真夜中ラジオ、メインパーソナリティの○○○○です。

冒頭で話したASMRなんですけど、……え?まだその話するのかって? いやいや、全然語り足りない。ASMRのコーナー欲しいくらい好きなので、ふふ。まぁそれは冗談なんですけど。

あー、でね。例えば、真夜中ラジオ聞いてくれてるみなさんは、誰かの声を聴いて眠りたい~って思って、それでまぁ8割?いや、9割?んー、いや9割は言い過ぎかな……、まぁそれくらいの人は私の声で眠れるって思って聞きに来てくれてると思うんですよね。……うん、そうだと願いたい。ふふ。

んで、つまり何が言いたいかというと、聞いて心地いいリラックスできる音なり声なりがあるってことで。だからね~ラジオ聞き流すの好きな人とかASMR絶対好きだと思うんですよね。

文字を書く音とか、キーボード打つ音とか、もうほんと色んな音があるの!絶対ね~気持ちいいな~って思う音あるはずだからね、ぜひね聞いて欲しいです。

……って熱く語りかけちゃった、やばいやばい。長くなる前に、今夜のコーナーいきましょう。

—コーナーコール—

『夜も眠れぬ、やっちゃった失敗談』

—コーナーコール・終—

おたよりご紹介していきたいと思います。

ラジオネーム、眠れぬ中間管理職さんから。

……名前からして眠れない感じ伝わってきますね。上と下に挟まれる中間管理職、つらいですよね~。わかるわかるってうちの番組ディレクターが首とれるくらい頷いてる。あはは。え?笑い事じゃないって?まぁそれはそうなんですけど。あ、すみません、おたより戻りますね。

〇〇〇〇さん、こんばんは。こんばんは~。

早速ですが、僕の失敗談を聞いてください。

先日、会社で大事な書類が行方不明になりました。部下は僕の机の上に置いたというのですが、僕はその書類を見た記憶がありません。

書類棚をひっくり返し、ゴミ箱も漁り、他の社員にも手伝ってもらい、約半日かけて探しました。それでも見つからず、ゴミと一緒に燃やしてしまったのかと全員があきらめかけたその時、なんと!僕は思い出してしまったのです……。先週末その書類を受け取り、そして土日を挟むからと、忘れないように、自分の引き出し奥のファイルに綴(と)じたことを。

なーぜ今頃思い出したのか!

なーぜそのファイルを今の今まで確認しなかったのか!

後悔してももう遅い。

正直に言うか、いや、どうにかごまかせはしないだろうかと、だらだらと嫌な汗がでてきて、頭の中はまさにパニック。

結局正直に打ち明けたのですが、部下はきっと呆れ返ったことでしょう。なんと情けの無い……。忘れたくても忘れられず、夜しか眠れません。

っておーい、夜眠れてるじゃないですか。なんだよもう、心配して損したぁ~。

まぁでも、確かにこの状況つらいですよね。

自分が持ってるって思いだしたときの、冷や汗だらだらなその気持ち、すごい分かる。しかも部下が失くしたんだったらね、あったんだからいいよ~って言えるけど、上司である自分がっていうのがね~またなんともつらい……。

誰しも一生のうちに1回は絶対体験してると思うんですよね。無い無いって、周り巻き込んで騒いだんだけど、実は自分が持ってました~っていう、嫌なうっかり。

本人は気にしがちなんですけど、意外とね、周りってけろっと忘れたりしてるんですよね。蓋を開けてみたら気にしてるのは本人だけで、周りはあーそんなことありましたね~みたいな。

眠れぬ中間管理職さんはきっともう大丈夫だったんだろうな~って感じしますけど、まぁでも気にしないように、部下の方にね焼肉でも奢ってごめんなさいして、忘れてしまいましょう。

では次のおたよりです。

ラジオネーム、ゆいなちゃんさんから。

〇〇〇〇さんこんばんは。私は都内に住む大学2年生です。先日、大好きな彼とおうちデートをしていたときのことです。

お昼を食べ、眠くなってしまった私は、うたた寝を始めました。そこで悲劇は起こりました。なんと私、「フガッ」という自分のいびきで起きたんです。当然彼もその瞬間を目撃し、そして大笑い。自分のいびきで起きるくらいですから、きっと相当な音量のいびきだったに違いありません。

すやすやと眠る可愛い彼女でいたかった。しかし現実はフゴーフゴーという大きないびきをかく彼女。しかも自分のいびきにびっくりして起きるなんて、も~う最悪。イネやブタクサなど春から秋までずっと花粉症の私は、鼻が詰まるとどうしてもいびきをかいてしまうんです。彼にもそう説明しましたが、恥ずかしいやら悲しいやら。

彼に幻滅されていないか心配です。

はい、ということなのですが。ゆいなちゃん。大丈夫。生理現象だもん。仕方ないし、花粉症だったらね、私もスギの花粉症あるからわかる。鼻詰まるとね、いびきかいちゃうよね。

横向きで寝るとかいいとか、なんか鼻腔広げるグッズとかもでてるけど、いびきかくときはかいちゃうし、ほんとね、仕方ない。

彼もね、きっとそんなことで幻滅しないはずだし、そういう人であって欲しいなぁ。

最初はさ、可愛いな~とかかっこいいな~とか、あとは性格が好きだな~とか、そういうので付き合い始めると思うんだけど、そのうちさ、不意にゲップしちゃったりとか、おならしちゃったりとか、いびきかいたりとかもね、そういう時お互いにきっとあるし、そういう瞬間も笑いあって共有していくっていうのが大事だと思うんだよね。

恥ずかしいのはもちろん恥ずかしいなんだけどね。

でもさ、恥ずかしい~って思うのいいことだよね。だって彼の前では可愛くいたいってことだし。そういう恥ずかし~ってなってる姿すごくかわいいな~って私は思うけどなぁ。

彼がね、万が一幻滅した~なんて言い出したらまたおたよりください。真夜中ラジオでお説教しますので。

さて、そろそろお時間のようです。

次回真夜中ラジオは、久々のなんでも質問コーナーをお送りします。番組スタッフさんや私〇〇〇〇に聞いてみたいなんなことやこんなこと、おたよりお待ちしてます。

—エンディング—

誰でも気軽に楽しめる「フリー台本・筆先の世界」。あなたの声で彩って。この番組、○○○○の真夜中ラジオは、フリー台本サービス、筆先の世界の提供でお送りしました。

それではみなさん、おやすみなさい。よい夢を。

—エンディング・終—

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【フリー台本】ボイスサンプル悪役 https://hudesaki.com/voicesample-2 https://hudesaki.com/voicesample-2#respond Sat, 26 Mar 2022 12:34:20 +0000 https://hudesaki.com/?p=2970 ボイスサンプル用原稿集です。

セリフ練習、声出し等、自由にお使いください。

ボイスサンプル原稿集

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【フリー台本】ボイスサンプル原稿・短いセリフボイスサンプル用原稿集です。 セリフ練習、声出し、ナレーション練習等、自由にお使いください。 ボイスサンプル原稿集 こ...
【フリー台本】CMナレーション原稿CM風の短いナレーション原稿集です。 ボイスサンプル用、セリフ練習、声出し、ナレーション練習等、自由にお使いください。 CMナレ...

ボイスサンプル悪役

悪役01

おいあんた、そっから先はあんたみたいな育ちのいいお坊ちゃんの行くところじゃねーぜ。死にたくなかったらさっさと引き返しな。

悪役02

腕一本20万円。脚なら30。内臓なら……お兄サン、健康そうにも見えないケドまぁいいネ…80万円出すよ。何今更ビビってる。借りたら返す。子供でも知ってるネ。

悪役03

常識も、法律も通用しない。あんた方お嬢さんが足突っ込んだのはそういう世界さ。死んだ方が負け。生きた方が勝ち。シンプルでいいじゃないか。ねぇ?

悪役04

べつにお前さんの命取ろうってわけじゃぁねぇんだ。ちょーっと走って行って、こいつでちょちょいと刺しちまえばいいだけよ。なぁ~に、相手は用心棒もいねぇただの爺さんだ。力比べしたらただの爺とあんた、どっちが勝つ?あぁ、そうさ、あんただろ?

悪役05

泣かせるじゃぁねぇか。女房子供の為にこんなボロボロになって走ってきたってかぁ。うっ、うっ……うわはっはっはっ。はーー、こいつは傑作だ。あんた何を勘違いしてんのか知らねぇが、ここはあんたが言う敵の本拠地だ。つまり、あんたは今守りたいもんの在りか、ぜーんぶ吐いちまったってこった。

悪役06

ん?そいつ?よーく知ってるよ。めーっちゃいい奴。飯食ってんのかって、タダでラーメン食わしてくれてさ。ほんと、めーっちゃいい奴で、ほーんと嫌んなっちゃう。偽善者ってこの世で一番嫌いなんだよね~。だから、あはは、殺してやったんだ。あはは。

悪役07

ったく、どいつもこいつも適当なことばっかり言って。人のことなんだと思ってんのよ。どうせ手駒の一つとしか思ってないんでしょ。うっ……そーよ、どうせ私なんて手駒の一つですよ。うわぁぁぁん、うちに帰りたいーー。

悪役08

ピンポンパンポーン。よくお聞きになってくださーい。今からゴミ掃除を行いまーす。よって、ここにいるゴミどもは、おとなしーく掃除されること。わかりまし……チッ、きゃーきゃーわーわーうっせぇなぁ。おとなしく掃除されろって、今言ってんだろーが。

悪役09

いいんです、正しいとか正しくないとか。そんなのどうでも。ナンシー以外ぜーんぶどうでもいいの。あの子がもう一度かわいい声で泣いたんです。ほら、今だって私のこと呼んでるわ。聞こえるでしょ?ママー、ママーって。ね?

悪役10

何も恐れることはありません。今感じているその痛みも直(じき)に消え、君は私の一部となる。おやおや、騙しただなんて人聞きの悪い。私の役に立ちたい、そう言ったのは君でしょう。

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【朗読台本】りすの物語【10分】 https://hudesaki.com/risunomonogatari https://hudesaki.com/risunomonogatari#respond Sat, 18 Sep 2021 12:39:54 +0000 https://hudesaki.com/?p=2919

作者:秋詩乃美雨 twitter

※こちらは寄稿作品です。台本作者は秋詩乃美雨(アキシノミウ)先生です。

りすの物語/秋詩乃美雨

りすは、傷を負っていました。

りすの巣の奥には、暖かい寝床も、今まで集めた木の実もありましたが、傷は深く、巣の入り口から動けず、雨風もしのげずにいました。

りすは、いつの間にか目の前にどんぐりが置かれていることに気が付きました。
いつもなら大好きなどんぐり。でも、なぜか食べる気分になれませんでした。けれど、動くことができなかったので、仕方なくそのどんぐりを食べました。
それから、いつも知らないうちに置かれているどんぐりを食べて、りすの傷は、少しずつ癒えていきました。

どんぐりがいつの間にか置かれて、それを食べて。
そんな生活が何日か過ぎたころ、りすはやっと動けるようになりました。
りすは、ゆっくり起き上がって森を見渡しました。
柔らかい光が木の葉の隙間から降り注ぎ、優しい風が頬をくすぐっていく、大好きな森です。
りすの足元には、また、どんぐりが置かれていました。

いつもどんぐりを届けてくれる相手のことを、りすはわかっていました。
それは、いつも憎まれ口を叩いてばかりいる、昔馴染みのあいつ。
どんぐりに、微かに匂いが残っていましたので、姿は見えなくても、りすには最初からわかっていたのです。

昔、「森のみんなでかけっこをして1番になったものにみんなから木の実や果物をあげる」というお祭りがありました。
誰よりも練習して、誰よりも1番になりたかったのは、この森が、誰よりも大好きなあいつでした。
自分が1番になったらみんなで持ち寄ったものをみんなで楽しく食べる、そう言って、一生懸命練習していました。

でも、1番にはなれませんでした。

たくさん、たくさん練習していました。
どれだけ悔しかったことでしょう。
いつも憎まれ口を叩いてばかりいる、昔馴染みのあいつは、勝者を称え、まるで自分のことのように喜びました。
みんなで食べようと集めていた、お気に入りの木の実も、珍しい果物も、拍手と同じように、惜しみなく、相手に贈ったのです。

りすはどんぐりを抱きしめました。
いつも素直じゃなくて、憎まれ口を叩いて、でも、すごくいいやつの、
微かに残った匂いに、感謝をしながら。

それから数日後のこと。
りすの傷は癒えてきましたが、チクチク、ズキズキと痛みは続いていました。
森は、ずっと雨でした。
辺りはうす暗く、風に揺れる木々はざわざわと、それを貫くように誰かの遠吠えが聞こえます。
りすは、だんだんと、心細くなっていく気持ちを隠せなくなりました。

遠吠えの主の姿は見えません。
きっと遠い場所にいるのでしょう。それなのに、りすの耳にはひどく大きく聞こえ、耳に残るその声は、頭の中で何度も何度もこだまするように、りすをどんどん不安な気持ちにさせるのでした。
その何者かもわからない声は、どこか懐かしい気がしました。
りすは、不安と懐かしさの中に、悲しみが隠れていることに気が付きました。
遠吠えを聞くたび、悲しみは少しずつ大きくなっていきました。

ある日、大きな葉っぱの傘をさして、くまがりすのもとへ遊びに来てくれました。
すっかり元気がなくなったりすの様子を見たくまは、何も言わず、優しく微笑みました。

くまは木の幹に腰掛けて、しばらく森を眺めたあと、ゆっくりと、いつもの穏やかな声で、りすではなく、遠くに出来た水たまりを眺めながら、りすに語りかけました。

冷たい風、止まない雨。恐ろしい声。
君は小さい。
すっかり変わってしまったこの森に、さぞ震えたことだろうね。
怖いかい?

一つ、お願いがあるんだ。
いつもの、君が大好きだったこの森を、忘れないでほしい。
僕と君が出会ったこの森、たくさんの仲間と一緒に楽しく笑った日々。
柔らかな木漏れ日に、頬を撫でる風。

くまはゆっくりとまばたきをしてから、りすを見つめました。
そして、初めてくまとりすが出会ったときとおんなじ優しい笑顔を向けると、雨の中、ゆっくりと帰っていきました。
りすは、嬉しくて、嬉しくて泣いてしまいました。

雨は、くまと会った日にようやく止んで、その日の夜の森はとても静かでした。
りすは、久しぶりに巣の奥の暖かいところで眠りました。
どんな夢をみていたのか、クスクスと楽しそうに笑っていました。

「よく寝た」と、りすは巣の外に顔を出しました。
外はまだ夜で、星たちがキラキラと輝いていました。
いつもの森。いつもの夜。いつもの星たち。
りすは、すっかり元通りになったと思っていました。
きらめく星たちに包まれて、今まで抱いたことのない思いが溢れてきました。

あの、キラキラ光る星を掴んでみたい。

りすは、巣を飛び出しました。
星を追いかけてぐんぐんと森を駆け抜け、木々をかわし、草むらをすり抜けて、やっと拓けた場所に出ました。

湖だ。

まるで星が落ちてきたみたいに、水面に星が映っていました。
りすは、星たちが本当にそこにあるように見えました。
そして息も整わないうちに湖に飛び込んだのです。

目の前の星を掴めないまま、りすの体はどんどん沈んでいきました。

不思議と苦しくも怖くもありませんでした。
大好きな森で出会った仲間たちとの、楽しい思い出が浮かんでは消えてゆき。
手を伸ばせば姿を隠し、まばたきをするとまたきらめく。
星たちは、沈むりすを追いかけるように一緒に沈む。

「あぁ、楽しかった」

りすは、そっと目を閉じました。

(間)

 

柔らかい光が差し込み、森の木々が風に揺られて楽しそうに歌う音に、りすは目を覚ましました。
巣の入り口にはいつものどんぐり。
りすはふかふかの地面をゆっくりと歩きながら、夢に出てきた湖に向かいます。
水面には、柔らかな光が反射していました。
りすはすこしドキドキしながら水面を覗き込み、そしてハッとしました。
りすの黒目がちの瞳に、小さいけれどキラキラと輝く星が映っていたのです。
りすは嬉しくなりました。

湖からの帰り路、いつもの森がいつもより輝いて見えました。
季節の移ろいを知らせる風が、優しくりすの頬をくすぐりました。

 

(間)以降エンディング選択、読まなくても良い

(おやすみりす)
いつの間にか、森に冷たい風が吹いていました。
歩き疲れたりすは、落ち葉の上でそっと眠りました。
黒目がちの瞳から、小さな星がひとつ零れ落ち、それから二度と、目を開けることはありませんでした。

 

(あそぼうりす)
いつの間にか、森はあたたかい色に染まる季節でした。
ふと、りすが振り返ると仲間たちが優しい笑顔でこちらを見ていました。
「おおーい、一緒に遊ぼう」
りすは大好きな仲間がいる、大好きな森の、みんなの元へ駆けていきました。

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【声劇台本】宵闇占い師『タイターの館』より【90秒】 https://hudesaki.com/33 https://hudesaki.com/33#respond Sun, 05 Sep 2021 10:40:01 +0000 https://hudesaki.com/?p=2911

90秒にしていますが、文字450字ほどありますので、こちらで作成したSEですとちょっとせかせか読む感じになります。お好みのSE使っていただけると。。

4人用声劇台本『タイターの館』よりモノローグ抜き出しです。

 

nana-music.com
・Uneasiness written by Amege DOVA-SYNDROME
・入店するときのベル  written by MATSU DOVA-SYNDROME
・効果音ラボより 夜の繁華街、

宵闇占い師・『タイターの館』より/筆先ちひろ

鬱陶しいほどのネオン。
日々の疲れを、
酔いに任せて吐き出すスーツ姿の男たち。
千鳥足で歩く男女。

汗と、アルコールと、食欲をそそる、肉の匂い。
見上げた夜空には、一面の黒が広がっている。

君は、ここ、大都会東京で
奇妙な噂が広まっているのを知っているだろうか。
何やら、突然と現れ、
突然と消える「占いの館」があるらしい。

扉の色はチョコレートブラウン。
その戸を開くと、耳に心地よいベルが鳴るそうだ。

しかし、建物ひとつ、
そっくりそのまま無くなってしまうなんて、
そんな話が本当にあるのだろうか?

いや、ここは大都会東京。
他と時間軸の違う、眠ることのない街。
どんなことが起きても不思議ではないのだ。

1:13   ベルSE(カランカラン)

さぁ、今宵のお客様のお悩みは……。
宵闇占い師、タイターの館へようこそ。

 

【声劇台本4人】タイターの館/エビ戦篇【1:1:2・20分】さぁ、今宵のお客様のお悩みは……。 宵闇(よいやみ)占い師、タイターの館へようこそ。 〇文字数:約5500字 〇推定時...
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https://hudesaki.com/33/feed 0 2911
【朗読台本】今日を生きているだけで【90秒】 https://hudesaki.com/32-2 https://hudesaki.com/32-2#respond Wed, 18 Aug 2021 03:27:04 +0000 https://hudesaki.com/?p=2897 今日を生きているだけで/筆先ちひろ

何時だっていい
目を覚まして、何か飲み物を飲んで、
それからゆっくり深呼吸

人と同じにできなくても
自分のことを情けなく感じてしまっても
自分のことが大嫌いでも

それでも、今日を生きているだけで
えらいんだって
頑張ってるんだって
たまには自分のことを褒めてあげる
そういう日があってもいいと思う

辛いことから逃げてしまっても
大丈夫

人生なんて
意外とどうにかなるものだから

色んな人がいて
色んな生き方があって
色んな考え方がある

どうにかなるっていう言葉が
届かないほどに今が辛いなら
立ち止まって
たくさん泣いても大丈夫

酸素を吸って
二酸化炭素を吐き出す
身体が生きるぞ~って頑張ってる
だから呼吸をして生きている、
それだけで君はえらいんだ

今日を生きてくれて
ありがとう

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【フリー台本】ボイスサンプル原稿・熱血根暗・父親母親等、短いセリフ https://hudesaki.com/voicesample02 https://hudesaki.com/voicesample02#comments Mon, 07 Jun 2021 20:19:22 +0000 https://hudesaki.com/?p=2819 ボイスサンプル用原稿集です。

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【フリー台本】ボイスサンプル原稿・短いセリフボイスサンプル用原稿集です。 セリフ練習、声出し、ナレーション練習等、自由にお使いください。 ボイスサンプル原稿集 こ...
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ボイスサンプル少年・少女

熱血少年01

はぁ?!何で負けたのに楽しそうなのかって?楽しいわけあるかよ。悔しいさ。すっげー悔しい。……けど、今の俺じゃ勝てないって分かったから、だから!修行して強くなる。そんでもって、次は絶対勝つ!よっしゃーそうと決まれば、さっそく腕立て千回!うおおおお!

熱血少年02

そうやって色んなこと我慢して、言いたいことも言わねーで、お前はそれでいいのかよ?!ちゃんとさ、言えよ。受け止めるから……。俺ら、友達じゃねーのかよ……。

熱血少女

ねぇ!一緒にやろうよ吹奏楽!好きなんでしょ?好きで好きでたまらないんでしょ?1回の挫折が何だって―のさ!私なんて毎日毎日へったくそーって言われてるよ。でも、好きだから頑張れる。君もさ、好きだから諦めきれなくて練習見に来たんでしょ?

悪役少年

残念だなぁ~。もっと楽しませてくれると思ったのに。えー!?どうしたの?そんなに震えちゃって!あっ、分かった。ボクが怖いんだ。いや、違うか、死ぬのが怖いのかなぁ?んーまぁ何でもいいや。もう遊びは終わり。君つまんないし、いらないや。

根暗少年

ぼくが魔物を倒す?!嘘でしょ?!そんなの出来っこないよ!だって、ぼくは村一番ののろまで、意気地なしで……。と、とにかく無理だよ!ぼくなんかじゃ……無理なんだ。

根暗少女

あ、あの……。私も付いて行ってもいいですか?あああ、すみませんすみませんご迷惑ですよね私なんか。つい調子に乗っちゃって。ほんと、ろくな魔法も使えなくて落ちこぼれの役立たずなのに、何言ってるんだろ、ほんとすみません……

弱気少女

ん、これ……。んーん、違う、君に。……そう。あげる。昨日嬉しかったから、だからそのお返し。……ありがと。

ボイスサンプルOL・上司・研究者等

OL

ねぇねぇ、聞いたわよー!営業部の丸山さんと食事に言ったって?!んもう、どうして言ってくれないのよー。いーなー、仕事も出来て性格も文句なし。部長のお墨付きで出世コース間違いなし。はぁーあ、私もいい出会い欲しいなー。

頼りがいのある上司

どうするもこうするも、誠心誠意謝るしかないだろう。完全なこちら側のミスだ。ま、心配するな。責任を取るのが上司の役目ってな。お前が頑張ったのも知ってるし、そうくよくよするな。

嫌味な研究者

一度しか言いませんからよく聞いてください。まぁ、一度しかと言ったところでどうせまた聞きにくるんでしょうけど。はぁ……。私のような超!優秀な研究者が、どうしてアナタのような超!出来損ないの相手をしないといけないのか。まったく、ため息が出ますよ。

ボイスサンプル父親・母親

父親01

父さんもな、昔は歌手になりたかったんだ。かっこよくギター弾いて、あっはっは、想像出来ないだろ。結局じいちゃんの仕事継いでこうやって田舎で暮らして、そうさなー、平凡でカッコ悪い親父だよな。ごめんな。

父親02

僕はカナメのこと応援してやりたいと思っているよ。確かに楽な道じゃないかもしれない。でも、カナメにはカナメの人生があるんだ。僕たちの理想を押し付けるのは違うって、母さんだって本当は分かってるんだろ?

母親01

だって、お母さんだもん。お母さんはね、強いんだぞー。ハルカを守るためなら、何だってできちゃうんだから。だから、ちゃーんと頼ってね。一人で何でも頑張ろうとしないでいいのよ。無理して大人のフリなんてしなくていーの!

母親02

母親になったら愛情とかそういうの、分かると思ったんだけど……アナタ産んでもなーんにも分からなかったのよねぇ。それどころかギャンギャン泣く赤ん坊抱えて、いつか殺しちゃうんじゃないかってさ……ほんっと、酷い母親でしょ?

ボイスサンプル人外・神・使い魔等

おや、何か迷い込んだな……。妖か……、いや人か?あっはっはっ。これは面白い。あの時の童(わらし)か。人の執念とは恐ろしいものだな。

使い魔

ご主人様ー!ご主人さ・ま!いい加減起きてください。まったく、ぼくがいないとな~んにも出来ないんだからほんと。さ、早く顔を洗って、歯を磨いて!あー忙しい忙しい。……って!もー立ったまま寝ないでくださいってばぁぁ!

巫女

よいか、わらわはこの社(やしろ)に代々使える格式たかーい巫女様なのじゃぞ。なんじゃその顔は!さてはお主、バカにしておるな!ぬぅぅぅぅ、どいつもこいつも……!仕方ない、お主、あそこの鳥居を見ろ!違う、逆じゃ逆!

悪魔

おやおや、随分と醜く殴られましたねぇ。しかし、安心なさい。願うだけでいいのです。ただ一度、私に助けてと、そう言えばすべてが解決する。あなたをバカにしたあの女も、憎い兄も、全て消し去ってしまいましょう。

 

【フリー台本】ボイスサンプル原稿・短いセリフボイスサンプル用原稿集です。 セリフ練習、声出し、ナレーション練習等、自由にお使いください。 ボイスサンプル原稿集 こ...
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【声劇台本】君へ『十月の朝顔』より【5分】 https://hudesaki.com/asamimonolog https://hudesaki.com/asamimonolog#respond Mon, 24 May 2021 06:59:00 +0000 https://hudesaki.com/?p=2719
【声劇台本2人】十月の朝顔~夢か現か幻か【60分】2部構成台本です。 1部:十月の朝顔(30~40分) 2部:夢か現か幻か(20~30分) それぞれ別で上演していただいても構いませ...

2人用シナリオ『十月の朝顔』より朝美の独白モノローグ抜き出しです。女性視点のモノローグですが、朗読、声劇など性別関係なくどうぞお使いください。

君へ『十月の朝顔』より/筆先ちひろ

夏。私は自宅での生活が困難になった。
病室の冷気が身体に張り付いて、夏らしさなんてこれっぽっちも感じない。

明日か、明後日か、それともこれを思っている次の瞬間か。
私は颯太を忘れてしまう。そしてそのまま死んでしまう。
なんて薄情な女なんだろう。

料理もへったくそで、気も強くて、挙句の果てに颯太を残して死んでしまうなんて。
なんてダメな女なんだろう。

こんな私を愛してくれて、ありがとう。

伝えたいありがとうは山ほどあるのに、それを伝えてしまったら、きっと颯太は私のことを忘れられなくなるだろうから。

だから、伝えないまま、忘れてしまうことにした。

これが颯太の描く脚本だったなら、きっと私は手紙か、ボイスレコーダーに彼へのありがとうを、ありったけ詰め込むのだろう。

でも、私は薄情な女だ。

安い呑み屋で口説かれたことも、

春の鎌倉も、一緒に作っただし巻き卵の味も。

超低気圧を纏った不機嫌な颯太も。

べろんべろんに酔ってパンツで寝ていた颯太も。

忘れてもいいよって泣いてくれた颯太も。

ぜーんぶ忘れる、薄情で合理的な女だ。

そんな女のことなんて忘れて生きてほしい。『十月の朝顔』のあの主人公のように。

あれを書いたから私が病気になったんじゃない。

あれを書いたあなただから、きっと私を忘れて前を向いて生きてくれるから。

だから私たちは巡り逢ったんだと思う。

0:   朝美、手帳をめくる。(ト書き)

『残される方が辛いから、だから前を向くために、僕は君を忘れて生きていく』
『十月の朝顔』 鈴木颯太

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【朗読台本】吾輩はご主人の猫なのである、其ノ二【5分】 https://hudesaki.com/nekonanodearu2 https://hudesaki.com/nekonanodearu2#respond Thu, 20 May 2021 07:10:19 +0000 https://hudesaki.com/?p=2446 1作目はこちら
【朗読台本】吾輩はご主人の猫なのである【5分】 https://hudesaki.com/nekonanodearu2 作者:珠白だんご ※こちらは寄稿作品...

作者:珠白だんご

※こちらは寄稿作品です。台本作者は珠白(たましろ)だんご先生です。

吾輩はご主人の猫なのである、其ノ二。/珠白だんご

吾輩はご主人の猫である

人間の毎日はやりたくないことばかり
ご主人は溜息を着きながらご飯を作る
めんどくさいと言いながら水浴びをする
けれど吾輩のカリカリだけは
やりたくないことではないらしい
されど忘れることは日常茶飯事だ

吾輩は猫であるからして強いのである

仕事から帰ってきたご主人が
ビニール袋とやらから
次々と何かを引っ張り出している
どうやらご主人は魔法使いになったらしい
吾輩はビニール袋の中が気になり覗いてみた
すると大人しかったビニール袋が
突然吾輩にピタッと張り付いて驚いた
逃げても逃げても追いかけてくるものだから
吾輩の耳はイカになり尻尾は杉の木のようだ

もう一度言っておくが
吾輩は猫であるからして強いのである

ゲラゲラと笑い転げるご主人を横目に
ビニール袋との戦いは続く
助けもしないで笑っているとは何事だと
そこら中の物を落としてやった
散々笑い転げたご主人が
やっとビニール袋を捕まえて
吾輩の頭を撫でながら「ごめんね」と言う
しかし顔は笑っているものだから許し難い
けれどご主人が吾輩を抱き上げて
「明日も頑張ろう」と
おでこをくっつけてくるものだから
しかたなく許してやった

人間の毎日はやりたくないことばかり
それでもご主人は一生懸命を繰り返している
そんなご主人が笑えるのなら
ビニール袋との戦いは吾輩の任務なのである

吾輩は猫である
自由気ままに生きていくのがニャン生(せい)よ
これは全て吾輩の望み通りの生き方なのである

吾輩は猫である

人間の毎日はやりたいことで溢れている
今日のご主人は仕事にはいかない
あと5分だけとも言わない
カリカリの時間になっても
起きる気配がないものだから
頭に擦り寄り喉を鳴らしてやった
するとご主人は目を擦りながら
「折角の休みなのに」と言っていたが
吾輩にはなんの事だかわからない

吾輩がカリカリを食べるのを
ボーッと眺めていたご主人だが
目が冴えてきたのか
あれよこれよと動き始めた
そんなご主人を横目に
吾輩はお腹が満たされそろそろ一眠り
なんともお日様が気持ちいい
これは良い夢が見れそうだ

大きなあくびを一つ
ふとご主人と目が合った
なんだか背中がゾワゾワしている
これはきっとろくなことがないと
慌てて逃げようとしたが
ニヤリと笑うご主人に捕まった

吾輩は猫であるからして水が嫌いなのである

吾輩は猫なのだ!
水浴びなどしなくても綺麗なのである!
どれだけ叫んでもご主人は
「大丈夫、怖くないよ。」と、容赦なく吾輩に水をかける
自慢の毛はぺちゃんこになり
愛らしい姿などどこにもない
そんな吾輩を見てまたご主人が笑う

もう一度言っておくが
吾輩は猫であるからして水が嫌いなのである

けれどこれがご主人のやりたいことならば
やりたくないことを頑張るご主人に
ご褒美をあげるのは吾輩の役目なのである
おまけに添い寝も付けるから
今夜のカリカリはちゅーる入りに違いない
そうこうしているうちに
吾輩はいつもの姿に戻っていた
ご主人は嬉しそうに
吾輩のお腹に顔を埋めて息を吸い込むと
「ああ、いい匂い」と何度も繰り返す
暫く水浴びはお断りだがどうしてもとゆうならば仕方がない

吾輩の毎日も人間の毎日と同じように
決して楽なものではないが
ご主人と一緒ならばまあ悪くはない

吾輩は猫である
自由気ままに生きていくのがニャン生(せい)よ

たまには吾輩の望み通りじゃない生き方の時もある

されど吾輩はご主人の猫なのである

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【朗読台本】ガマの呼び声【15分】 https://hudesaki.com/gama https://hudesaki.com/gama#respond Wed, 19 May 2021 07:19:12 +0000 https://hudesaki.com/?p=2436

作者:道 淨彦(ミチ キヨヒコ)twitter

カクヨムリンク:https://kakuyomu.jp/users/seed-strike923/works

※こちらは寄稿作品です。台本作者は道 淨彦(ミチ キヨヒコ)先生です。

ガマの呼び声/道 淨彦

そんなに、大した話ではないのですが。私(わたくし)、生まれが島の方でして。ああ、そう、沖縄です。今ではすっかり内地(ないち)の暮らしに慣れてしまったものですから、あまりそういうふうには見えないかもしれませんが。

しかしこれでも、たまには昔のことがなつかしくなって、島に帰ることがあります。
幾年か前のことです。

その日も私は、久々に島の空気を胸いっぱいに吸って、故郷の森を鷹揚(おうよう)に歩いていました。

あそこは森ひとつ取り上げてみてもこちらとはずいぶん違うものです。

かなり空気が湿っていて、それだけに草木が元気そうにしげっていますし、トカゲや鳥もきれいな色をしたものを見かけるとなんだか、つかまえてもいないのにしめた気分になるもので。

ええ、とてもいいところです。

──しかし、そのとき以来もう島には帰っていません。
なぜって、それはとても──とにかく、お話を聞いていただければわかります。
話を戻しましょう。

森の中を散策しながらふと、この美しい自然を帰ってからも思い出したくなって、手ごろな石をひとつ、草をかきわけて拾ったんです。

そのとき傍(かたわ)らにひどく錆(さ)びついて元の形もわからないような鉄の塊が落ちていたのをよく覚えています。ええ、あれも今思えば──いえ、きっと思い過ごしでしょう。きっと──うん、そんなはずは──。

ああ、すいません。少し嫌なことを考えてみると、背筋が凍るようなところまで、思い当ってしまうこともありますね。さあ、続けましょう。

石は、そのままリュックの奥の方にしまいました。そうして、さてそろそろ宿に帰ろうかというところで、木々の間から覗かれる真っ黒いものに目を奪われたんです。それは、遠目に見ても人が幾人も入るぐらい大きくて、丸い形をしていました。

何故だかよくわかりませんが、私はどうにも気になってしまったんです。少し近づいてみれば、そこには大きな洞穴(ほらあな)がありました。

はてこんなところに洞窟なんぞあったかな、道に迷ったのだろうかと、その穴をじっとみながら考えているうちに、私はふと、自分の喉がひどく乾いているのに気づきました。

ええ、そして──ちょうどそのときでした。洞窟の奥の方から、滴の垂れる音を聞いたのは。

──信じられないくらい、水を求めていたものですから、手荷物の中の水筒のことまで忘れて、私はまっすぐ暗闇の中へこの身を投じたんです──ええ、本当に、遠くまで投げやるような勢いでした。

今まで一度だってないほどに必死だったものですから、あんまりそれからどういうふうに降りていったのか、自分でもわかりませんが、そうしているうちに、私は不思議な明かりの下にいるのに気が付いたんです。

ああいえ、そこも同じく穴は穴でしたが、入り口があんなに大きかったのに、私の目の前に続いている道は、人がちょうど並んで二人歩けるほどの広さしかないのが不思議でした。
しかしそんな考えは、すぐに例の渇きが鎌首をもたげて、とにかく吹っ飛ばしてしまったんです。

「進まなきゃならんのだ、進まなきゃならんのだ」と、ただそれだけを考えて前に進んでいると、たまにものすごく背中が熱くなったり、とてつもない風に押されて体がふわりと前に飛び出たりして

──あれも、一体何だったのか──とても見当なんて──いや、つかないわけでもないんですが、口に出すのがこんなにそら恐ろしいこともないんです。どうか、それ以上お尋ねにならないでください。

ええ、それでは、また……続けましょう。

さらに奇妙なのは、その洞窟に入ってそれまで人っ子一人見当たらなかったのに、そこが妙に生臭かったことです。変な、汗と、なんといいますか、その、便(べん)が、境もなくなるほど交じり合ったものに、うえから鉄の粉をまぶしたような、不愉快な臭いでした。それが、体の周りにねっとりまとわりつくみたいに、私を包んでいるんです。

なんだか、しばらくその空気を吸っていると私も股のあたりからこう、肉が錆(さ)びてぽろぽろ落ちていっているような気持ち悪い感覚がしてきました。

しかし、喉はあいかわらず乾くんです。もう入る前よりずっとカラカラで、ろくにものも考えられませんでした。

とにかく前に足を進めて、洞窟の奥まで行こうとしたんです。

そうして、もう、何か飲まなければ干からびてしまいそうなぐらい口の中がひりひりしていたぐらいになって、やっと私は、向こう側から、近づいてくる人影を見つけられました。
こんなむさくるしい中を、手慣れた様子できびきびと歩いてきていましたから、そのひとの風貌はすぐ明らかになりましたよ。ワイシャツと、下にもんぺを履いて杖をついた、女生徒さんでした。

──ええ、しかし、いまどき妙な格好でしょう。ですが、そんなことはもう、私にとってはどうでもよいことでした。水、水、そればかりでしたから──。

ふらふらしていた私を見て、女生徒さんはすぐに「なにをしてらっしゃるんですか」と口を開かれましてね。

私は、死人のうめき声みたいなガラガラのだみ声で、「水」とだけ言ったんです。

すぐさま「この先に、そんなものございませんのよ」と返されて途方に暮れたような気持でいると、「わたくしもちょうど外に御用がありましたから、ついていらっしゃってください。こんなムシムシするところでは、一口水をのんだところでしようがないでしょう」と、優しく声をかけてくださったので、私は、拝みたくなるような気持ですっと踵を返してしまいました。

「危なかったわ。この先には、兵隊さんがたくさんおりますから、このままいっていれば、殺されてしまうところでしたのよ」と、私を先導する彼女は言うものですから、こんな場所に某国軍の駐留基地なんて、あった覚えは、なんて思案もしてみましたが、それ以上に妙なのは、彼女が地面につきもせず持っている杖でした。

それで、お若いのに、どうしてそんなものをもっているんですか、と訊くと、「もうじき日も落ちます。外には、『いやなもの』が、たくさん転がっておりますから、それを踏んずけちゃいけませんものね。こうして、杖で足元を確かめるんです」と言うばかりで、私は腑に落ちないわだかまりをもやもや抱えたまま彼女のあとを歩いていきました。

他にも、変なことをたくさん言われました。

「こんな場所ですから気が触れてしまう方も大勢いらっしゃいますけど、どうか気をしっかりもって、もし、くるってしまっても決して、そこらに落ちているものを口に入れたりはなさらないでくださいましよ」とか、「洞窟を出るまで、振り向いてはいけませんよ」とか。

しかし、その方の声には、どうも私の気持ちを安らかにしてくれる不思議な力があるように思えてなりませんでした。さっきまでとは逆向きにずんずん進んでいくごとに、喉の渇きもやわらいで、頭からぽんと抜けていってしまったぐらいのものです。

そうこうしているうちに、とうとう元の場所へ私は戻ってきました。

女生徒さんが満足げに笑いかけてきて、「それでは、わたくしはこれで」と洞窟の中に戻ろうとしましたから、「ご用事があるのでは?」と問いかければ、「もう済みました。早くお帰んなさい」と答えて返したのに、私の口をついて出た返事は──笑わないでいただきたいのですが、本当に、無意識に、私は──「はい、姉さん」と、そう言ったんです。

そのあと、すぐにハッとして、私はあの顔が、戦時中に学徒隊で動員され死んだと聞かされた、姉の写真にうり二つだったことに気づきました。

なんだか、嬉し半分で、しかし、真っ暗になった森が、ゾッとした気持ちの方を大きくしたものですから、私は怖気づいて一目散に宿へと駆け戻りました。

いえ、島にはもう、と確かに言いましたが、そこから行ってないわけではありません。とはいっても一度だけなんですが、とにかく一度また翌朝、その森に出向いたんです。

途中までは、きれいで蒸し暑い、いつもどおりの島の森でした。が、しかし、たったひとつ、獣道のうえに転がっていた、擦り切れて、ぼろぼろになった布きれの染み、たったそれだけ、その一点だけなんですが、それが目に留まったとたんに、私は、他のものが見れなくなってしまいました。

「なぜ、こんな人気(ひとけ)のない森にそんな、人間のものが落ちているんだろう」と、考え始めたら腹の底から蛆がわいてくるような気味悪さがどっと押し寄せてきて、昨日、あの『姉』と別れてから感じた、背筋にひんやりとミミズが通っていくような感覚になるので、また同じように、すぐに帰り支度を整えて、もう島を離れました。

ええ、それっきりです。

嘘ではないんですよ。御覧なさい、これがそのとき持ち帰った石です。私はこの石から、なんだか不思議なあたたかさと、こわさを感じるんです……。

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【朗読台本】凪を迎えるその日まで【5分】 https://hudesaki.com/31 https://hudesaki.com/31#respond Fri, 14 May 2021 07:03:23 +0000 https://hudesaki.com/?p=2397 凪を迎えるその日まで/筆先ちひろ

凪という言葉は、
風がやみ、波が穏やかになることを言うらしい。
私の心もそうであればいいのに、
それはなかなかに難しく。

右に揺れ、左に揺れ、
ぱっと光が差したかと思えば、
突然に雨が降り出すこともある。

それは通り雨のようなときもあれば、
梅雨のように長引くときもあり。
月に何度かは、雷を伴うこともある。

まるで天気のようだと例えるにしては
晴れているときが笑ってしまうほどに少ない。

海のようだと言うにしても、
どちらかといえば、
それは大しけの日本海に近い。

そういえば、
あちら側の海は新鮮であった。

地面が割れるような雷鳴をまとい、
ぼたぼたと雪が降る。

雷は雨の時に鳴るものだと思っていた。
私が知らぬことなど、
この世に山ほどあるのだろう。
太平洋側ではなかなか目にすることのない景色。
あれには、心が躍った。

この世に生まれた空っぽだった入れ物に、
たくさんの愛情と、たくさんの新鮮を詰め込んで
年相応の入れ物が出来上がった。

そうしていくうちに、新鮮はどんどんと減り
これまでと同じ愛情では物足りなくなり。

満たされぬ入れ物は、
まだ空きの大きな若い入れ物を羨(うらや)んだ。
別の新鮮が詰まった、別の入れ物に焦がれた。

そのようなときは、
雨が降り出す前の真っ黒な雲がもくもくと
体の中をまだかまだかと敷き詰めていくような
そんな感覚であった。

なぎという言葉は、
和(やわ)らぐという漢字を使って、
和ぎ(なぎ)とも書くらしい。

なんでも、さきに「なぎ」という発音があり
そこに漢字を当てていったそうだ。

和らぐという漢字で表す和ぎは、
主に心情に用いられる。

私に和ぎがやってくるのはいつだろうか。

きっとそれは、死ぬ間際……いや、私のことだ。
死ぬ間際まで
ああだこうだといらぬことを考えては
心を荒げているのだろうから
死んでしまったあとにしか、
それはこないのだろう。

ところで。
私のような者にも、
どこか草原の上に立つような
カーテンがふわりと揺れる昼下がりの部屋ような
そのような気分のときもある。

そのようなときを大切にして
そのような気分を与えてくれるモノに感謝を忘れず

それ相応に息ができれば
それでよい。

それでよいと思うときもあれば
それではだめだと
焦がれた別の入れ物を追うときもある。

それでよい。

凪という言葉は、
風がやみ、波が穏やかになることを言うらしい。
私の心もそうであればいいのにと
思うことも度々あるが
それはなかなかに難しく。

大しけの日本海のような劣等も
草原の上に立つような幸福も
この入れ物の内(うち)に入れて
どうにかこうにか舵を取る。

凪を迎えるその日まで。

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https://hudesaki.com/31/feed 0 2397
プロ声優さんとコラボしてみよう♪90秒アニメ風台本! https://hudesaki.com/animation https://hudesaki.com/animation#respond Thu, 06 May 2021 08:52:16 +0000 https://hudesaki.com/?p=2354 声優の高橋圭一(@vocalkei)さんが当サイトの台本とコラボしてくれました。高橋さんの出演履歴はWikiにありますのでそちらから参照ください。

出演履歴(Wiki)

nana-music.com

 

筆先ちひろ
筆先ちひろ
nanaのアカウントがあれば気軽に高橋さんとコラボできますので、よければコラボしてみてくださいね!!

※BGMはnanaアプリ内で拝借したものですので、BGMのアプリ外使用はお控えください。
※nanaアプリ外での高橋さんとのコラボ投稿はお控えください。

さどしへっどさん、1号 @synthesizerさんの素敵な演奏にもぜひ拍手を!

以下台本。青マーカーがコラボ用セリフです。

リミッター解除/筆先ちひろ

☆ボス、愛しの鈴村がお助けに来たっスよー

★遅い!大体なんだその格好は
派手な色は身につけるなと言ってるだろう
まったく、貴様はいつまでもへらへらと……

☆あーはいはい、すみませんでしたァ
そうキーキー言わないでくださいよ

☆しっかしボス、この状況。少しくらい可愛くおねだりしてくれてもいいんじゃないっスかね?助けてーって

★……脳天ブチ抜いてワニの餌にしてやろうか?

☆俺が助けないとどうしようもないくせに

★あァ?!誰のせいでこんなことになったと思って……

☆あっはは、冗談ですってば冗談
怖い怖い。ま、こんだけ元気なら心配ないか

☆取り敢えず、5分で終わらすんで
もーちょっと痛いの我慢しててくださいね

★なに舐めたこと言ってやがる、1分だ

☆いや、流石にそれは……

★鈴村ァ!制約第三項までを一時破棄!
敵に回したこと存分に後悔させてやれ!

☆あららー、
なーんかいきなり振り切れちゃってますけど
ま。いきますか

☆★リミッター解除
☆深淵のトリシューラ(好きな技でご自由にどぞ)

 

参考コラボ作品

nana-music.com

nana-music.com

nana-music.com

他にも素敵なコラボたくさんありますので、聞いてみてくださいね~。

 

元台本はこちら
【声劇台本2人】リミッター解除【不問2・90秒】バトル系声劇台本です。 振り切れちゃってキメろ厨二技! ベタですませんー 人称変更、言い回し変更、アドリブご自由に。 悪ふざ...

 

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https://hudesaki.com/animation/feed 0 2354
【声劇台本】真夜中ラジオ第二夜【10分】 https://hudesaki.com/nightradio2 https://hudesaki.com/nightradio2#comments Wed, 31 Mar 2021 18:05:03 +0000 https://hudesaki.com/?p=2312
筆先ちひろ
筆先ちひろ
ほのぼのラジオ風台本です。真夜中ラジオの続きです。どちらからやっても問題ありません。○○○○のところにお名前当てはめて一人称も変えたりして言いやすい口調でどうぞ。BGM付けたりエコーはめたりするとより、それっぽくなるかと思います

構成台本も公開してるので、ラジオやりたいよ~って方はそちらご参考にどうぞ。

【フリー台本】ラジオ用・構成台本ラジオ用の構成台本です。参考にするなどして、お使いください。 ※このページの構成台本についてはクレジット不要です。(そのままじゃ使...
【声劇台本】真夜中ラジオ【10分】 構成台本も公開してるので、ラジオやりたいよ~って方はそちらご参考にどうぞ。 https://hudesaki.com/fr...

真夜中ラジオ第二夜/筆先ちひろ

—タイトルコール—

○○○○の真夜中ラジオ。

—タイトルコール・終—

皆さんこんばんは。○○○○です。

この番組は、なかなか夜寝付けない、誰かの声を聴いて眠りたい、そんな寂しい夜に私、○○○○が寄り添っていこうという番組です。

眠れない理由って色々あるかと思うんですけど、私この間しょーもないことで眠れなくなってしまって。皆さんゲームとかやります? 私スマホでね、ゲームしてるんですけど、いつもガチャ運悪くって。それが、どうしちゃったのか、単発1回で欲しかった大当たり引いたの。もうね、声出たよね、嘘ー?!って。

それで大興奮して、アドレナリン凄く出たんだろうね。目がもうギラギラしちゃって。一生分の運使い切っちゃったかも、どうしよどうしよーって、布団に入っても全然寝付けなくて。ずっとスマホの画面と睨めっこして、寝不足になりながらお仕事に行きました。ふふ、大人気ないですね。

寝る前のスマホいじり、やっぱり良くないみたいだから、皆さん程々にね。寝付けないとついつい触っちゃうけど。それでは、そろそろ始めていきましょう。

—CM—

誰でも気軽に楽しめる「フリー台本・筆先の世界」。あなたの声で彩って。この番組はフリー台本サービス、筆先の世界の提供でお送りします。

—CM・終—

—タイトルコール—

○○○○の真夜中ラジオ。

—タイトルコール・終—

改めましてこんばんは、真夜中ラジオ、メインパーソナリティの○○○○です。

冒頭でしょーもないお話してしまってごめんなさいね。みんなゲームとかやるのかな? おススメのゲームとかあったら、お便りで教えてくださいね。私ガチャ運悪いので、出来ればあんまりガチャ関係ないやつがいいなぁ。ふふ。では、今夜のコーナーいきましょう。

—コーナーコール—

『眠れぬ夜の、ほっこりいい話』

—コーナーコール・終—

おたよりご紹介していきたいと思います。

ラジオネーム、お仕事つらいよさんから。

僕は26歳の社会人です。先日、扁桃炎(へんとうえん)を拗(こじ)らせて入院してしまいました。祖母が見舞いに来てくれて、着替えが必要だろうとTシャツを買ってきてくれたのですが! なんと! そのTシャツの真ん中には大きなクマのキャラクターがプリントされていました。

なんとも言えないくまちゃんで、部屋着で着るにも戸惑うくまちゃんです(笑)。正直、心の中で「うわーこんなの着られないよー」と思いましたが、目の前でにこにこしている祖母を見ていると、とても言えませんでした。

どうしてクマを選んだのか祖母に聞いてみたところ、小さい頃、僕はクマのぬいぐるみが大好きで、周りの男の子がヒーローに夢中になっていても、ぬいぐるみ遊びをいてしたからだそうです。大人になって、そんなことすっかり忘れてしまっていました。

祖母にとっては、僕はまだ昔のままなんだなとじんわり心が温かくなりました。今度祖母を温泉に連れて行こうと思っています。おススメの温泉地があれば教えてください。

P.S.くまちゃんTシャツはタンスの肥やしになりました。

はい、ということなのですが……。

Tシャツ着て! もー、お仕事つらいよさん、部屋着でいいから、くまちゃんTシャツ着てあげて! 部屋の中だったら誰も見てないし、ね? ……とは言ったものの、どんなTシャツなのか分かんないし、部屋着でも嫌だと思うデザインだったら仕方ないですね。お婆ちゃんには申し訳ないけど。

仕事してるとさ、いっぱい我慢しなきゃいけないことあって辛いと思うんですけど、いいよね、お婆ちゃん。

お婆ちゃんの前だとさ、ずっとずーっと子供でいられるし、お婆ちゃんにとっても、ずっとずーっとお仕事つらいよさんは子供のままで可愛いんだろうなぁ。いいなぁ。私もお婆ちゃんに会いたくなっちゃった。ふふ、素敵なエピソードですね。

あ、ところで、扁桃炎大丈夫ですかー?

あれね、菌が常駐するから1回なると癖になっちゃって、ちょーっと体弱った時とかに、またなったりするんですよね。熱も40度近く出るし。ラジオ聞いてくれてる皆さんも気を付けてくださいね~。健康第一ですから。

あーあと、おすすめの温泉地なんですけど、そうだなぁ、湯河原(ゆがわら)温泉とか好きですね。東京から行くと、熱海の少し手前なんだけど、熱海ほど人がいっぱいってわけでもなくて、のんびりできてイイですよ。海が見えるお宿とかもあるし。あとね、食べ物だと、鬼怒川(きぬがわ)温泉が好き。私湯葉(ゆば)が好きで、ぜひね1回鬼怒川の湯葉食べてみて欲しい、美味しいから。……って私関東だからつい関東近辺になっちゃうなー。お仕事つらいよさんどの辺に住んでるんだろ、参考にならなかったらごめんね。

ふふ、温泉の話ずっとしちゃいそうなので、次のおたよりご紹介します。

ラジオネーム、どんぐりころころさん。

名前が可愛いですね~。どんぐりころころどんぶりこー(歌う)。あ、知ってます? どんぐりころころ「どんぐりこ」、じゃなく「どんぶりこ」なんですよ? 結構曖昧になってる人いるみたいなので……えー、佐藤さんどんぐりこだと思ってたって? ひとつ賢くなりましたね。ふふふ。

あ、すみませんおたよりです、おたより。私のラジオ自由過ぎるって、この間マネージャーさんに怒られたばっかりだった。まぁでも今のは佐藤さんも一緒になって話したので、共犯ということで。え? 早くお便り読めって? あはは、すみません。では、改めまして。

○○○○さんこんばんは!こんばんは~。
私は17歳の高校2年生です。

○○○○さんは英語得意ですか? 私はとても、とてもとてもとても、苦手です。期末テストでは、人生初の赤点を取ってしまいました。なな、なんと、38点!

親に怒られるーと泣きそうになりながら凹んでいたのですが、友達が私の点数見て! と見せてくれたその答案用紙には、25点の文字が!! 38点も捨てたもんじゃないなと前向きになれました。捨て身で励ましてくれる素敵な友人がいる私は、なんて幸せ者なんだろうとほっこりしました。

……ということなのですが、うん。好き! 私どんぐりころころさん好き。ほっこりいい話なのかちょーっと微妙ではあるけど、なんていうかねー、すごく前向きでポジティブでいい! そういう考え方大事!

なんかさー、いいよね。赤点とか点数低いテストって人に知られたくないじゃない? そういうのをさ、オープンに見せ合える友達がいるって、素敵なことだと思う。ほんと、どんぐりころころさん自分でも言ってるけど、幸せ者なんだと思うよー。お友達大事にしてくださいね。

あ、因みに、私も英語苦手です。

でもねー、お金の話になってごめんなんだけど、英語できるとちょーっと割のいいお仕事とかもらえたりするんですよ。英語はね~、出来た方がいい。嫌だとは思うけど、お友達と一緒に勉強頑張ってみて。学生は勉強がお仕事ですから! なんちゃって。ふふ、柄にも無く真面目なこと言っちゃった。

そういえば英語で思い出したんだけど、眠れない時ってよく分からない言語とか聞いてると眠くなりません? 教科書開くと眠くなるのと似てるっていうか……。え?! 今度英語でラジオやれって? 冗談やめてください、苦手だってさっき言ったじゃないですか……。もーほんとここのスタッフさんたちといつか本気で喧嘩しちゃいそう。ふふ。

さて、そんなこんなでそろそろお時間のようです。次回真夜中ラジオは、やっちゃった失敗談をお送りします。

—エンディング—

誰でも気軽に楽しめる「フリー台本・筆先の世界」。あなたの声で彩って。この番組、○○○○の真夜中ラジオは、フリー台本サービス、筆先の世界の提供でお送りしました。

それではみなさん、おやすみなさい。よい夢を。

—エンディング・終—

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https://hudesaki.com/nightradio2/feed 1 2312
【フリー台本】CMナレーション原稿 https://hudesaki.com/cmnarration https://hudesaki.com/cmnarration#comments Sat, 27 Mar 2021 17:22:24 +0000 https://hudesaki.com/?p=2280 CM風の短いナレーション原稿集です。

ボイスサンプル用、セリフ練習、声出し、ナレーション練習等、自由にお使いください。

CMナレーション風原稿

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【フリー台本】ボイスサンプル原稿・短いセリフボイスサンプル用原稿集です。 セリフ練習、声出し、ナレーション練習等、自由にお使いください。 ボイスサンプル原稿集 こ...

日用品:CMナレーション

日用品01

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日用品02

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車:CMナレーション

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ゲーム:CMナレーション

ゲーム01

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その他:CMナレーション

その他01

週3から働きたい。2時間だけ、空いた隙間時間で働きたい。週5でガッツリ稼ぎたい。そんなあなたの希望に寄り添います。働くをもっと楽しく。ワークライク。

その他02

ベルトの上にどーんと乗ったぜい肉。そのままでいいんですか?いいわけないですよね!くびれ、割れた腹筋、美しいボディラインを手に入れましょう!マッスルンなら、テレビを見ながら、料理をしながら、装着するだけでいいんです。安心の3年保証付き。さぁ今すぐお電話を!

提供:CMナレーション

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誰でも気軽に楽しめる「フリー台本・筆先の世界」。あなたの声で彩って。この番組はフリー台本サービス、筆先の世界の提供でお送りします(しました)。

未分類(更新中)

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『夜空に輝くあの星のように……そう思っていた時が僕にだってあった。大人になるって諦めることなのだろうか』藤崎浪子待望の新作、三角書店より。

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【フリー台本】ボイスサンプル原稿・熱血根暗・父親母親等、短いセリフボイスサンプル用原稿集です。 セリフ練習、声出し等、自由にお使いください。 ボイスサンプル原稿集 こちらのページの原稿...

 

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【朗読台本】私の死にたいを言語化してみた【10分】 https://hudesaki.com/30 https://hudesaki.com/30#respond Sat, 13 Mar 2021 08:34:07 +0000 https://hudesaki.com/?p=2227
  • 推定5~10分ほど。
  • 私の死にたいを言語化してみた/筆先ちひろ

    私という人物は生きたいか、死にたいかで言えば、死にたいに傾く人間であり、死にたいか、生きたくないかで言えば、生きたくないに傾く人間である。つまるところ、死のうでも、死にたいでもなく、生きたくない人間なのだ。

    しかし、不幸だという感情が強いわけでもない。どちらかといえば、こんなものだろうと諦めに似た感情が強いだけであり、それを不幸だと捉えているわけではない。

    10キロ先まで皆が知り合いだというような小さな田舎に生まれ、それなりに不自由なく暮らしてきた。いじめられることもなく、友人関係に苦労もしていない。頭も悪くなく、容姿も際立って悪いわけでもなく、太ってもいなければ、運動ができないわけでもない。要領も悪くなく、仕事をしていても物覚えはいいし、何をやってもある程度の成果を出すことができる。時間があれば旨いものを食べ、旨い酒を飲み、それなりに楽しく生きてはいるのだろう。大きな不満はない。が、ただ漠然と、生きたいと思う理由が見当たらない。

    日本という国が合わないのではないかと、海外に飛び出したこともある。しかしやはり、思考は変わらなかった。何か漠然と、ただ生きるということそのものが肌に合わないのである。

    もしやこの世界の住人ではないのではないかと、頭の飛んだファンダジー思考を若い頃は展開したものだ。当然のことだが、中国神話に現れる伝説上の生き物である麒麟も、魔法学校からの手紙も、それらしい迎えは何一つとして来なかった。実に残念なことである。

    どうしてこんなにも面倒な生きるという活動をしなければならないのか。生きたくないのに死ねもしない。なんとも不自由で、情けのない生き物である。

    終了ボタンを差し出され、それを押せば何事もなかったかのように終われるのなら、迷いなく押すだろう。しかし実際はそんなものはなく、痛い思いをするか、苦しい思いをするか、そうしなければ終わることはできない。それは嫌なのだ。わがままだと笑うのならば勝手に笑えばいいが、痛いのも苦しいのも面倒なのも、私は嫌なのだ。生きていることは面倒で嫌だし、死ぬことは痛く苦しいので、嫌なのだ。

    それつまり、生きたいということだろうと思うかもしれないが、そんな簡単な話ではない。私は、明らかに生きたくはないのだ。言っておくが、病んではいない。当然だろう。死にたくはないのだから。私はあくまで、生きたくないのであって、死にたいわけではない。

    なにか頭のおかしなことを言っているように聞こえてくる気もするのだが、皆、生きたくて生きているのか、不思議なことだ。痛いのも苦しいのも嫌だから、仕方なく死なないだけであって、皆、生きたくないのではないか。人間という種の存続上、そう遺伝子に組み込まれているだけであって、皆元より、生まれた瞬間に生きたくないと思うものではないのか。私は種の存続に抗う何かなのかもしれないなどと、ふと考えてはみたが、どうやら若い頃の頭の飛んだファンタジー思考はまだ健在のようである。

    これをあと何十年と続けていくと思うと、ぞっとする。この先あと何十年を生きようが、私の望むものはこの生の中に、どこにも存在しないのだ。私が私のことをそう言っているのだから、これは間違いの無いことなのだ。他人にこの感情が分かるはずもなく、それは至極当然のことである。故に、そんなことはないと軽率に言うその口を、私は心底軽蔑し、心底嫌っている。お前こそ早く死んで仕舞えばいいのにと。

    ところで、死んで仕舞えばいいとは思うが、殺してしまおうにはならないし、実際に死んでしまえばそれなりに悲しくもなるだろう。なんとも、不自由で情けのない生き物である。

    今日も全く、生きることが面倒であり、今日もまた、私は生きたくないを積み重ね、そうして生きていくのだ。しかしながら、誰かに殺されるのは全くもって御免だし、それつまり、私の死にたいはやはり、死のうでも死にたいでも殺してくれでもなく、生きたくないということなのである。

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    https://hudesaki.com/30/feed 0 2227
    【朗読台本】毒を呷(あお)った姉妹【5分】 https://hudesaki.com/dokuwoaotta https://hudesaki.com/dokuwoaotta#respond Tue, 09 Mar 2021 02:06:34 +0000 https://hudesaki.com/?p=2199

    作者:清水流兎 twitter

    ※こちらは寄稿作品です。台本作者は清水流兎(しみずると)先生です。

    毒を呷った姉妹/清水流兎

    おや、いらっしゃいませ。お久しぶりですね。いえ、貴方はそうでもなかったでしょうか。とにかく、よくおいでくださいました。こんな場所で、お茶もお出しできませんが、どうぞゆっくりしていってください。

    さて、今日のお話は題して『毒を呷(あお)った姉妹』。

    時は少し昔のこと。ある町の裕福な家に双子の姉妹がおりました。裕福とは言いますが、この時代の裕福というのは、食べるのには困らないという程度の意味です。大人しく気立ての良い姉のローザ。いつも笑顔で活発な妹のリーリヤ。性格は正反対ながら、二人はお互いを半身のように思っておりました。
    「いつも元気なリーリヤが大好きだよ」
    「私も、いつも優しいローザが大好き」
    そう言って憚(はばか)らなかった二人の仲の良さは町でも評判で、その微笑ましい姿は住民達を笑顔にしたと言います。そんな二人が行事で披露するローザのヴィオラ、それに合わせたリーリヤの舞いは町でもたいそう人気でした。いつか二人でもっと大きな舞台に立とう。人々に舞いを披露する度、そう語り合いました。その時の二人にとってそれは幸せで当然のことであったでしょう。

    しかし、人生とはままならぬもの。階段で足を滑らせたローザを庇い、リーリヤが怪我をしてしまいました。動かなくなった足を見て、彼女は何を思ったでしょう。ローザもリーリヤを元気付けようとしましたが上手くいきません。

    そんな折、ローザは一人の商人から一本の薬を手にしました。その薬とはこう言われるものです。互いを想い会う二人が真にそれを望んだならば、互いの体を入れ替えることができる。ただし、嫉妬があったならば、ただ不幸が訪れるだろう、と。

    ローザはすぐにリーリヤと話をしました。二人が何を話したのかはわかりません。それからいくらか経ったあと、車椅子に乗るリーリヤがヴィオラを持ち、舞いを披露するローザの姿があったそうです。町の住民達は二人の元気そうな姿に喜びました。二人が披露する舞いに以前と違った趣(おもむき)があったとて、とやかく言う者は多くなかったそうです。

    お話はここでおしまい。一見よくあるようなこのお話、貴方はどう解釈しますか。

    二人は望むとおりになれたのでしょうか。二人は本当に入れ替わったのでしょうか。そして、何かを乗り越えたのでしょうか。

    明確な答えはありません。貴方の胸の内に存するそれが答えであり、貴方自身です。さあ、貴方は……。

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    https://hudesaki.com/dokuwoaotta/feed 0 2199
    【声劇台本2人】十月の朝顔~夢か現か幻か【60分】 https://hudesaki.com/asagao https://hudesaki.com/asagao#respond Sun, 07 Mar 2021 03:50:58 +0000 https://hudesaki.com/?p=2193 2部構成台本です。

    1部:十月の朝顔(30~40分)
    2部:夢か現か幻か(20~30分)

    それぞれ別で上演していただいても構いません。

    〇文字数:約15,000文字

    〇推定時間:60分

    〇登場人物:1:1

    鈴木颯太(そうた):1部34歳。2部35歳。売れない脚本家。言葉遣いが少々粗い。

    鈴木朝美(あさみ):33歳。家事全般嫌い。合理主義。病気を患っている。

    〇その他 0⇒ト書き

    作者解釈など以下にまとめました。興味があれば。

    『十月の朝顔』と『夢か現か幻か』についてあとがきさて、ついこの間ですね、十月の朝顔のシリーズ『夢か現か幻か』放出しおわったのでつらつらnote第3弾書いていこうかな~と。 もともと春...

    十月の朝顔/筆先ちひろ

    0:   季節・秋。
    0:   颯太、朝美。安い居酒屋。

    朝美:魚? 切り身買ってくればいいじゃん?

    颯太:いや、自分で捌けたら料理の幅が広がんだろ?

    朝美:んーまぁそうだけど。

    颯太:いや、顔が全然納得してないけど。

    朝美:うーん……。

    颯太M:夏と秋の間。
    颯太M:あれほど五月蠅かった蝉の声もすっかり聞こえなくなった9月の終わり。

    颯太M:朝美とは友人の紹介で知り合った。

    颯太M:金の無かった俺は、彼女が嫌がらないのをいいことに、安い呑み屋に良く誘っていた。

    朝美:ねー、自分のためにご飯作っても仕方なくない?

    颯太:1日1食は絶対取るだろ? 美味いもん食った方がいいじゃん。

    朝美:「美味いもん」なら外食すれば、食べられるじゃん。

    颯太:そーいうことじゃねんだよ……。

    朝美:だってほら! ここのお店も美味しいよ?

    颯太:うん……。

    朝美:たこわさに、塩辛に……せんべろ嫌い?

    颯太:嫌いってわけじゃねーけど……。

    朝美:んーもぉ、うるさいなぁ。はいはい、かんぱーい!

    颯太:乾杯何回目だよ。

    朝美:2回目。

    颯太:そういうこと聞いてんじゃねーの。

    朝美:じゃあ何? 何が聞きたいの?

    颯太:んー、いやさ、お前仕事場青山だろ?

    朝美:うん。

    颯太:こんなとこじゃなくて、赤坂とか表参道とか、それこそ六本木で飲んでた方が「美味いもん」食えんじゃねーの?

    朝美:ばっかだなー。ホント分かってない。

    颯太:はぁ?

    朝美:もー、怒んないでってば。

    颯太:別に怒ってねーけど。

    朝美:あっちの方で飲むこともあるけど、どうせ仕事の付き合いだし。

    颯太:うん。

    朝美:それにあの辺高いだけで、見た目オシャレに盛り付けてればいいと思ってるお店多くて。味なんてぜーんぜん。

    颯太:ふーん。

    朝美:安くて美味しい店で、ぐだぐだ、どーうでもいい話してるほうがずっと楽しいし。

    颯太:俺とはどうでもいい話なわけですか。

    朝美:そ。くだらない、どーうでもいい話。

    颯太:少しくらい否定しろよ。

    朝美:ほんとばか。どうでもいい話できて、無言も気まずくなくって。最高の褒め言葉じゃん。

    颯太:そういうもん?

    朝美:そういうもん。
    朝美:ってか何、今日やけに突っかかってくる。口うるさい男はモテないよ?

    颯太:料理しねぇ女に言われたくねぇよ。

    朝美:はぁ? 失礼な! 相手がいれば最低限の料理はしますー!

    颯太:例えば?

    朝美:肉じゃがとか。

    颯太:ほぉー。

    朝美:ハンバーグとか。

    颯太:おー意外。

    朝美:あと餃子とか! 一緒に作ったりもしたよ?

    颯太:でも魚は?

    朝美:捌けません!

    颯太:(笑う)。何? 魚の目が怖いとか女子らしいこと言うの?

    朝美:そーいうの言ったほうが可愛い?

    颯太:試しに言ってみ?

    朝美:……「お魚の目がこっち見てるでしょ? だから捌けな……」

    颯太:かんぱーい!

    朝美:ちょっと最後まで聞いてよ!

    颯太:いや聞くに耐えなくて。

    朝美:もー、ほんと失礼。

    颯太:そーやってふて腐れる反応は可愛いんだけどな。

    朝美:なにそれ。

    颯太:さぁねー。ほれ、かんぱーい!

    朝美:乾杯の用途ちげーわ、ばか。
    朝美:ってかねー私が料理しないのはちゃーんと理由があるんですー。

    颯太:ふーん。左様でございますか。

    朝美:……おい、理由聞け。無視して酒飲もうとすんな。

    颯太:うっせーな。つーか、酒こぼれるわ。どうせ聞かなくても話すんだろ?

    朝美:1日って24時間でしょ?

    颯太:ほら、聞かなくても話す。

    朝美:やらなきゃいけない事と、やりたい事なんていっぱいあるじゃん?

    颯太:まぁ確かになー。

    朝美:だから私は料理を捨てた!

    颯太:なにその啓発本みたいな言い方。

    朝美:んもー! ばかにすんな。

    颯太:はいはい、すみませんでしたー。

    朝美:颯太だって睡眠時間削ってやりたい事やったりするでしょ?

    颯太:まぁなー。

    朝美:それと一緒。

    颯太:ん?

    朝美:自分一人で食べるものなんて、出来合いの総菜でいいもん。
    朝美:いいかね、颯太くん。時間とは何人にも平等で、そして有限なのです!

    颯太:なんかいいこと言ってる風。

    朝美:イイ事言ってるの!

    朝美:やらなきゃいけない事、やりたい事なんていっぱいなんだから、
    朝美:やらない事をちゃーんと決めて合理的に生きなきゃ。

    颯太:出た。超合理主義。

    朝美:なによ。合理主義が悪いみたいに言うな。無駄が嫌いなの。

    颯太:別に悪いって言ってねーよ。つーか、食う奴いればちゃんと魚も捌くの?

    朝美:相手による。

    颯太:結局捌きたくないだけじゃねーか。

    朝美:……バレた?

    颯太:バレバレ。

    朝美:まーでも魚捌くかは別として、食べる人いればそれなりに料理するよ。出来ないわけじゃないし。

    颯太:んーじゃあ、俺がお前のまずーい料理、食ってやろうか?

    朝美:はぁ?

    颯太:はぁ?ってもうちょっと可愛い反応欲しいんですけど?

    朝美:可愛い反応って、「まずーい料理」なんて言われてできるわけないし。
    朝美:てか、もしかして私口説かれてる?

    颯太:さぁなー。

    朝美:さぁなーって何もう。……んーでも颯太だったら私もっと料理しなくなる。

    颯太:なんでだよ。

    朝美:えー、だって颯太の方が料理できるもん。

    颯太:教わろうとかそういうの無いわけ?

    朝美:ない!

    颯太:いや、潔すぎだろ。

    朝美:(笑う)。私ってスーパー合理主義じゃん?

    颯太:だからドヤ顔やめろって。

    朝美:合理的に考えた結果、颯太が料理した方が……。

    颯太:人の話聞く気なしかよ。

    朝美:ない。

    颯太:はぁ?

    朝美:颯太が料理した方が美味いし、早いし、その間に私が稼いだほうがいい。

    颯太:おい、ヒモみたいに言うな。

    朝美:言ってないし。

    颯太:言ってるわ。

    朝美:いや、颯太ちゃんと働いてるじゃん。でもー。ほら、颯太は売れない脚本家だから。

    颯太:うるせー。(笑う)

    朝美:まぁ私はファンだけどね。1番最初のやつ、あれ好き。

    颯太:女が死ぬやつ?

    朝美:そう。あれ、タイトルなんだっけ?

    颯太:『十月の朝顔』

    朝美:あ、それそれ! 朝顔の朝と、朝美の朝。一緒だからなんとなくで見たんだけどさ。あれの最後のほうのー。

    颯太:やめろって、恥ずかしいから。タイトルださいってクソほど叩かれたんだよ。

    朝美:えー、私は好きだったけどね。
    朝美:まぁ、叩かれるだけ見てくれてる人がいるってことでしょ。ファンメールくれる人とか、いないの?

    颯太:一応一部のファンからはきてるけど。

    朝美:ふふ。そっか。もっとファン増えたらいいなー。颯太の良さが世に広まればいいのに。

    朝美:あー……ねぇ、私たちって結構合理的じゃない?

    颯太:ん?

    朝美:料理しないキャリアウーマンと、料理のできる売れない脚本家。
    朝美:ご飯作ってくれたら、あとは好きに書いてていいし。私働くから。

    颯太:なにこれ、俺口説かれてる?

    朝美:さぁねー。
    朝美:(笑う)朝はね、だし巻きと味噌汁ね!

    颯太:何? だし巻き好きなの?

    朝美:うん、飲み行くとだいたい頼んでるでしょ?

    颯太:あー確かに。甘いのとしょっぱいのどっちがいいの?

    朝美:甘いの。

    颯太:残念。俺しょっぱい派。

    朝美:えーじゃあ、たまに甘いのでいいよ。我慢する。

    颯太:我慢って……。つーか毎日だし巻きはさすがに飽きるだろ。

    朝美:そう?

    颯太:そうだろ。(笑う)

    0:間。

    颯太M:我ながら酷い口説き方をしたと思う。

    颯太M:俺の妻は合理主義で要領がいい。稼ぎも文句なし。あー、それから、好きなものは甘いだし巻き卵。

    颯太M:料理をなかなかしたがらない点を含めたとしても、売れない脚本家の俺には勿体ないような人だった。

    颯太M:出会ってから1年のスピード婚。

    颯太M:そう、何がどうなってしまったのか、
    颯太M:料理の出来る売れない脚本家は、料理をしないキャリアウーマンを射止めてしまった。

    0:間。
    0:   結婚1年目。季節・秋。
    0:   颯太、朝美、自宅。料理中。

    颯太:卵めっちゃかき混ぜて。

    朝美:んで片栗粉?

    颯太:直で入れんなって。だしと合わせて後から入れんの。

    朝美:めんどくさ……。

    颯太:あのね、その面倒なのウマいって食ってるのどこのだれよ。

    朝美:はいはーい、ここの私。

    颯太:威勢よく言うなよ。

    朝美:あ、ねぇ! 甘くしよ! 甘いの食べたい。

    颯太:いや、たった今白だしに片栗粉溶いたじゃん……。

    朝美:あ、そっか。じゃぁ、明日甘いのにしよ?

    颯太:誰が焼くんだよ。

    朝美:颯太。

    颯太:ですよねー。

    朝美:へへへ。あっ……。

    颯太:今度何?

    朝美:会社に電話すんの忘れてた。

    颯太:休みなのに?

    朝美:んー、なんかね、資料どこですかー? って連絡入ってたから。

    颯太:相変わらずご多忙で。いいよ、あと焼いとくから。

    朝美:あーだめだめっ!

    颯太:はぁ?

    朝美:私が焼く!

    颯太:ふ……。

    朝美:何? なんで笑ったの?

    颯太:いや、昔は教わる気ないって言いきってたのになーって。

    朝美:教えを乞う私。可愛いでしょ?

    颯太:うん。可愛い。

    朝美:ちょ、なに、気持ち悪い。

    颯太:照れた?

    朝美:照れてない! もー、卵混ぜて待ってて。

    颯太:はいはい。早く電話してきな。

    朝美:うん、ありがとー。

    颯太:混ぜすぎてメレンゲなる前に戻ってこいよー。

    朝美:メレンゲは白身で作るから、それはメレンゲにはなりません。

    颯太:お、よく知ってんじゃん。

    朝美:知識だけならちゃんとある。

    颯太:おー。渾身のドヤ顔のようですが、髪もぼさぼさでノーメイク。20点。

    朝美:んもー失礼。

    颯太:早く電話かけてこいって。

    朝美:はーい。

    0:間。

    颯太M:結婚1年目。この時は、今がずっと続くと思っていた。

    0:   朝美、スマホを落とす。

    朝美:……ッ。

    颯太:あーぁ、画面割れてない?

    朝美:保護シートヒビ入った。最悪……。

    颯太:まぁ保護シートだけなら2、3千円で済むっしょ。

    朝美:……。

    颯太:どした?

    朝美:なんかうまく力入らない。

    颯太:左手?

    朝美:うん。

    颯太:大丈夫? 卵混ぜすぎて痺れた?

    朝美:そーかも。

    颯太M:困り顔で笑う彼女を呑気に見ていた。
    颯太M:それから二月(ふたつき)。乾燥した空気が肌を刺す冬の夜。

    0:   季節・冬。
    0:   颯太、自宅。朝美、駅前。入電。

    朝美:もしもし颯太、今……どこ?

    颯太:どこって、家だけど?

    朝美:ね、帰り道分かんなくなっちゃって。

    颯太:はぁ? 今どこ。

    朝美:駅。

    颯太:駅ってどこの?

    朝美:……練馬。

    颯太:はぁ? 最寄りじゃん。

    颯太:何? 酔ってんの?

    朝美:だよね、酔ってんのかな私。

    颯太:……どした? 大丈夫?

    朝美:わかんない。

    颯太:迎え行くから、ちょっと待ってて。

    朝美:うん……。

    颯太M:彼女は店に入ることもなく、小さな手を氷の様に冷たくしながら俺を待っていた。

    颯太M:異変を感じるには十分すぎた。

    颯太M:大きな病院を紹介され、呆れるほどにたくさんの検査をして分かったことは……。

    朝美:あーもしもし、お母さん。元気?

    朝美:……うん。今度颯太とそっち、ちょっと帰るね。

    朝美:んー? 何もないよー。

    朝美:んーうん。うん……。

    朝美:なんかあったでしょって、何で分かるの……。やっぱすごいね、お母さんって。

    朝美:……私ね、……私、死んじゃうんだって。

    朝美:わかんない、身体動かなくなって、……うん。

    朝美:色々忘れて。……それで死んじゃうって。

    朝美:あと、2年か、もしかしたら1年だって。……なんで?

    朝美:なんか悪いことしたかなぁ……。

    颯太M:呆れるほどにたくさんの検査をして分かったことは。

    颯太M:発症から1,2年で確実に死に至る、そんなクソのような病気に彼女が選ばれたということだった。

    颯太M:医者の話では、来年の冬は寝たきりか、もしかすれば冬を迎えることもないらしい。

    0:間。

    颯太M:出逢いと別れに世間が浮かれる春。
    颯太M:彼女は仕事をやめた。

    0:間。
    0:   季節・春。
    0:   颯太、朝美。自宅。

    朝美:ねー。どっか旅行行きたい。

    颯太:どっかってどこ?

    朝美:イギリス?

    颯太:海外か……。

    朝美:2026年完成なんでしょ?

    颯太:何が。

    朝美:えっと……んと。あれ、サクラダ……。

    颯太:サ「グ」ラダ・ファミリアね。

    朝美:そう、それ!

    颯太:ちなみにイギリスじゃなくスペインな。

    朝美:んじゃスペイン行きたい。きっと完成は見れないし。

    颯太:そういうこと言うなって。

    朝美:……スペイン行ったら、旅行記書いてみようかな。

    颯太:いいんじゃん? 自叙伝的な。

    朝美:書き方教えてくれる? 颯太せんせ。

    颯太:気が向いたらね。

    朝美:えー気向けてよ。

    颯太:高く付くよ?

    朝美:金ならある!

    颯太:いらねーよ。ばか。

    朝美:高く付くって言ったのそっちでしょ?

    朝美:あ、ねぇ。すごい今更だけどさ、なんで書いてるの?

    颯太:脚本?

    朝美:うん。

    颯太:うーん、なんかストレス発散みたいな。

    朝美:えーでも書いてるとき機嫌悪くなってるじゃん。ちょー低気圧纏ってる。

    颯太:そんなに?

    朝美:うん。

    颯太:ごめん。

    朝美:まぁ、慣れたから別にいいけど。

    颯太:なんかさ、書いたら忘れるんだよねー。もやもやしたのとか、後悔とか色々。

    朝美:えーじゃあ自叙伝書いたらスペイン行ったのも忘れちゃう?

    颯太:それとこれとは別。

    朝美:そっか。

    颯太:うん。ん? なにそれ?

    朝美:んー? やりたい事リスト。「人生の100のリスト」みたいな。

    颯太:あーなんか一時期そんなの流行ってたね。

    朝美:でたー、流行モノに興味がない脚本家。

    颯太:はぁ?

    朝美:流行モノは流行るだけの理由があるんだから、ちゃんとチェックしたほうがいいですよー?

    颯太:ご忠告どーも。ふ。

    朝美:何? 馬鹿にしてる?

    颯太:いや、だし巻き卵にチェック入ってるから笑った。

    朝美:あー、もうね上手に焼けるようになったからチェック入れた。

    颯太:そっか。ちょっとペン貸して。

    朝美:ん。……えー三枚おろし?

    颯太:うん。魚捌こうよ。

    朝美:やだ。切り身買えばいいし、颯太が捌くからいい。

    颯太:そこだけは頑な(かたくな)なのな。

    朝美:魚の目がこっち見てて怖いの。

    颯太:はいはい。

    朝美:なにその言い方。

    颯太:どーせ面倒くさいだけだろ。

    朝美:バレた?

    颯太:バレバレ。

    朝美:……ね、私ねー、実は幸せ者なんじゃないかなーって思って。

    颯太:何、急に?

    朝美:だってさ、朝いってらっしゃーいってしたまま、事故とかでもう会えなくなっちゃう人もいるわけじゃん?

    颯太:うん。

    朝美:私、準備期間もらっちゃった。

    颯太:……。

    朝美:料理もちょっとずつコツ教えてもらってるし。これで一人でも大丈夫。

    颯太:普通逆。

    朝美:あはは。そっか。んーじゃぁ、颯太が一人でも思いっきり書けるように、お金いっぱい残しとくね。

    颯太:ヒモみたいに言うな。

    朝美:言ってないし……ってこんなやり取り昔したね。

    颯太:うん。

    朝美:……逆だったらよかったのになー。

    颯太:ん?

    朝美:私が残される方だったらさ。きれいさっぱり忘れて、新しい男捕まえて生きるし。

    颯太:はぁ?

    朝美:ほら、私、超合理主義だから。

    颯太:薄情だな。

    朝美:でしょ? ……だからさ、忘れてね。

    颯太:……。

    朝美:私のあと少しはさ、颯太が隣にいて幸せだけど、その後が心配。化けて出ちゃうかも。忘れろーって。

    颯太:……巨乳の美女捕まえる。

    朝美:えー?

    颯太:料理も超できる女捕まえる。

    朝美:えー? ……しんどい。

    颯太:じゃぁ思ってもないこと言うんじゃねーよ、ばか。

    朝美:……思ってはいるんだけどね。

    颯太:……。

    朝美:いつだったか言いそびれたじゃん。

    颯太:ん?

    朝美:颯太の処女作。『十月の朝顔』。あれの最後の方、好きだよ。

    颯太:なんだよ急に。

    朝美:『残される方が辛いから、だから前を向くために、僕は君を忘れて生きていく』

    颯太:よくまんま覚えてんな。

    朝美:ファンですからねー。あー、これだけは忘れないように、書いとこうかな。残される方が……

    颯太:いいよ、そんなん書かなくて。

    朝美:いーの。私の手帳なんだから。好きなこと書くの。

    颯太:……はいはい。

    朝美:私もね、忘れて生きてくれーって思うし、逆でもきっとそうする。

    颯太:あんなん書かなきゃよかった。

    朝美:えーなんで?

    颯太:なんでも。

    朝美:あー! 私の病気あんなの書いたからだとか、面倒くさいこと思ってる?

    颯太:……。

    朝美:図星だ。
    朝美:あのねー、そんな事言ってたら脚本家の嫁みーんな死んでるよ?

    颯太:ほっとけ。

    朝美:……。

    颯太:ね、旅行、国内にしない?

    朝美:やっぱり?

    颯太:うん。

    朝美:飛行機も新幹線も怖いしなー。あー、鎌倉は? 車で行けるし!

    颯太:運転俺だよね?

    朝美:うん。

    颯太:ちょっとキツくねーですか?

    朝美:行きたいなー鎌倉。行きたいなぁー。

    颯太:はぁ……。頑張りますかー。

    朝美:やった。平日がいいなぁ。ね、来週は?

    颯太:はぁ? はやくね?

    朝美:善は急げって言うし! 持っていくものメモしなきゃ。

    颯太:この間メモ用のアプリ教えてやったじゃん。あれ使えば?

    朝美:あ、そっか。……ん、ねぇ。

    颯太:ん?

    朝美:ごめん、どのアプリだっけ……?

    颯太M:彼女はどれがどのアプリなのか、時折認識できなくなっているようだった。

    颯太M:ジメジメとした梅雨の始まり。彼女の左手、左足の麻痺がより酷くなった。

    0:   季節・梅雨。
    0:   早朝。朝美、ボウルを床に落とす。徐々に取り乱す。
    0:   颯太、別室から起き上がってくる。

    朝美:……っ。

    颯太:大丈夫?!

    朝美:あ、うん。ごめん、卵こぼしちゃった……。

    颯太:朝飯いいよ、俺作るから。

    朝美:……できるよ。

    颯太:ん?

    朝美:ちゃんとできる。

    颯太:うん。

    朝美:ダシに片栗粉溶かして、いっぱい混ぜて、それから……焼き方だって、覚えてる。

    颯太:うん。

    朝美:……教えてもらったの、全部覚えてる。

    颯太:うん。

    朝美:……嘘。ほんとはそんなことも分からなくなるの。

    朝美:手がね、動かないの。

    朝美:自分の手なのに……。なんで?

    颯太:朝美……。

    朝美:なんなのこれ。

    颯太:朝美、ちょっと落ち着いて。

    朝美:なんで、落ち着いてなんて言えるの? 動かないんだよ? 足も手も!

    朝美:明日、もうホントに全部動かなくなっちゃうかもしれないんだよ?

    颯太:……ごめん。

    朝美:もう、いや。

    颯太:……。

    朝美:このまま私全部動かなくなって、颯太のことも全部忘れて、私が私じゃなくなって。

    朝美:それで、死んじゃうんだよ。先に。

    颯太:朝美……!

    朝美:お母さんからも連絡あったでしょ?
    朝美:私たち結婚して間もないし、私みたいなの背負う必要ないって。

    颯太:朝美!

    朝美:私がいなくなった後も颯太は生きなくちゃいけないんだよ?

    朝美:嫌なの。私、きっと一人で何も出来なくなる。

    朝美:颯太にいっぱい、いっぱい迷惑かけて、それで颯太のことも、全部忘れて。

    颯太:朝美!

    朝美:……。

    颯太:手が上手く動かせないなら一緒に作ればいいし。
    颯太:俺だって、べろんべろんに酔ってパンツで寝転んでるような変なとこ見られてる。

    朝美:そんなの……。

    颯太:元々料理のできない女と、料理ができる男の二人じゃん俺ら。
    颯太:俺のことなんていいように使いなよ。合理的にさ。

    朝美:……そんなの、できないよ。

    颯太:売れない脚本家が病気の嫁放り出してみろ。世間がなんて言うか。
    颯太:だから、朝美が嫌だって言っても一緒にいるし。俺のために。

    朝美:なにその言い方。

    颯太:こうでも言わないと納得しないかと思って。

    朝美:……私、颯太のことも忘れちゃうんだよ?

    颯太:いいよ。

    朝美:先に死んじゃうんだよ?

    颯太:うん。

    朝美:うんって……そんな簡単に言わないでよ。

    颯太:だってさ、俺ら誓ったじゃん。
    颯太:健やかなるときも、病めるときも、死が二人を分かつまで、って。

    朝美:……。

    颯太:そう言って一緒になったんじゃん。

    朝美:……うん。

    0:間。

    颯太:……落ち着いた?

    朝美:ううん。

    颯太:えーー。

    朝美:……ごめんね。ごめんね。

    0:間。
    0:   季節・夏。

    朝美M:夏。私は自宅での生活が困難になった。
    朝美M:病室の冷気が身体に張り付いて、夏らしさなんてこれっぽっちも感じない。

    朝美M:明日か、明後日か、それともこれを思っている次の瞬間か。
    朝美M:私は颯太を忘れてしまう。そしてそのまま死んでしまう。
    朝美M:なんて薄情な女なんだろう。

    朝美M:料理もへったくそで、気も強くて、挙句の果てに颯太を残して死んでしまうなんて。
    朝美M:なんてダメな女なんだろう。

    朝美M:こんな私を愛してくれて、ありがとう。

    朝美M:伝えたいありがとうは山ほどあるのに、それを伝えてしまったら、きっと颯太は私のことを忘れられなくなるだろうから。

    朝美M:だから、伝えないまま、忘れてしまうことにした。

    朝美M:これが颯太の描く脚本だったなら、きっと私は手紙か、ボイスレコーダーに彼へのありがとうを、ありったけ詰め込むのだろう。

    朝美M:でも、私は薄情な女だ。

    朝美M:安い呑み屋で口説かれたことも、

    朝美M:春の鎌倉も、一緒に作っただし巻き卵の味も。

    朝美M:超低気圧を纏った不機嫌な颯太も。

    朝美M:べろんべろんに酔ってパンツで寝ていた颯太も。

    朝美M:忘れてもいいよって泣いてくれた颯太も。

    朝美M:ぜーんぶ忘れる、薄情で合理的な女だ。

    朝美M:そんな女のことなんて忘れて生きてほしい。『十月の朝顔』のあの主人公のように。

    朝美M:あれを書いたから私が病気になったんじゃない。

    朝美M:あれを書いたあなただから、きっと私を忘れて前を向いて生きてくれるから。

    朝美M:だから私たちは巡り逢ったんだと思う。

    0:   朝美、手帳をめくる。

    朝美M:『残される方が辛いから、だから前を向くために、僕は君を忘れて生きていく』
    朝美M:『十月の朝顔』 鈴木颯太

    0:間。

    颯太M:朝晩が冷え込み、秋を感じるようになった十月。
    颯太M:彼女は「彼女」ではなくなった。

    0:   季節・秋。
    0:   颯太、病室へ入ってくる。

    颯太:どう?調子は?

    朝美:……。

    颯太M:残された時間はあとどれくらいだろうか。

    颯太M:安い丸椅子をベットの隣に置き、そこに腰掛ける。

    颯太M:そして、何度目か分からない自己紹介をする。

    0:間。

    颯太:おはよう。

    朝美:……。

    颯太:俺は、鈴木颯太。

    颯太:職業は売れない脚本家。得意なことは料理。

    颯太:君は、鈴木朝美。俺の奥さん。

    颯太:合理主義で要領がよくて、稼ぎも文句なしの、元キャリアウーマン。

    颯太:好きなものは。

    朝美:だし巻き……。

    颯太:朝美?

    朝美:颯太の作った甘いだし巻き卵。

    颯太:……。

    颯太:……うん。

    朝美:……。

    颯太:朝美? 分かるの?

    朝美:……うん。

    0:間。

    颯太M:君は、鈴木朝美。俺の奥さん。

    颯太M:好きなものは、「俺の作った」甘いだし巻き卵。

    颯太M:一瞬だけ戻った「彼女」の手を握り、ただ泣いた。

    颯太M:十月に咲いた朝顔が冬を越えることは、なかった。

    /:
    /:   1部『十月の朝顔』 完
    /:

    夢か現か幻か/筆先ちひろ

    0:   季節・春。
    0:   颯太、朝美。自宅。

    朝美:颯太~、おーはーよ。

    颯太:……。

    朝美:ね~起きて。

    颯太M:随分と懐かしい声を聞いた気がした。

    0:   間。

    朝美:んもー何時だと思ってるのー! 起きて。

    颯太:んー……。

    朝美:起きてってば!

    颯太:んーもう少し……。

    朝美:何言ってんの、もう8時だってば!

    颯太:え⁈

    朝美:「え⁈」じゃなくて!

    颯太:レンタカー何時だっけ?

    朝美:9時!

    颯太:ああああ……。

    朝美:「ああああ……」じゃなくて!
    朝美:もー、早くシャワー浴びてきて! 早く、ほら。

    颯太:あぁぁぁぁ……。

    颯太M:そうだ。あの日、確か俺は寝坊をして。

    0:   間。
    0:   朝美、颯太、車内。

    朝美:んもー、行きたいところいーっぱいあるって言ったのに~。

    颯太:ごめんって。

    朝美:しらすの釜めし……。

    颯太:……。

    朝美:小町通りのお団子。
    朝美:クレープに、厚揚げに。鎌倉野菜のカレー。

    颯太:全部食い物じゃん。

    朝美:悪い?

    颯太:いや、悪くねーです。はい。

    颯太M:朝美に小言を言われながら、春の東名高速を走った。
    颯太M:レンタカー独特の、キツイ芳香剤の香りを今でも覚えている。

    朝美:(鼻歌)。

    颯太:なに? ご機嫌?

    朝美:颯太が寝坊したから不機嫌~。

    颯太:えー。

    朝美:うそ。遠出久しぶりだから、楽しい。

    颯太M:楽しそうに景色を追う、彼女の横顔も、まだ、覚えている。

    0:   間。
    0:   朝美、颯太鎌倉にて。

    颯太:大丈夫? 疲れてない?

    朝美:平気~。

    颯太:そっか。

    朝美:うん。颯太こそ、運転で疲れたんじゃない?

    颯太:まぁほどほどに。

    朝美:えー、大丈夫?

    颯太:どっかの誰かさんが車で連れてけーって言うから。

    朝美:えー、どっかの誰かさんって誰だろ。

    颯太:朝っぱらから起きろ起きろってうるさい誰かさん。

    朝美:それは颯太が寝坊するからでしょ~。

    颯太:あはは、ごめん。

    朝美:(笑う)。

    颯太:行きたいな~鎌倉。行きたいな~。車で行きたいな~。

    朝美:えー何それ、私のマネ?

    颯太:そう。似てた?

    朝美:似てないよー。

    颯太:あれー、おかしいな。
    颯太:(咳払い)、行きたいなー鎌倉、行きたいなぁー。

    朝美:もー違うって。行きたいな~鎌倉。行きたいなぁー。

    颯太:行きたいなぁ~。鎌倉、行きたいなぁー。(弄るように)

    朝美:バカにしてるでしょ?

    颯太:(笑う)。天気よくてよかったなー。

    朝美:あーもー話逸らすー。

    颯太:(笑う)。

    颯太M:人というのは声から忘れていくらしい。
    颯太M:いずれ忘れてしまうのだろうか。この声も。

    朝美:ほんとに天気よくてよかった。やっぱ日ごろの行いかな~。

    颯太:俺頑張ってるもんなー。

    朝美:えー私の行いがいいからでしょ~?

    颯太:はぁ?

    朝美:「はぁ?」って……。
    朝美:今朝だって私早起きしたし、ご飯も作ったし。

    颯太:あー……。

    朝美:寝坊してレンタカーの時間ギリギリだったの誰のせいだろ~。

    颯太:ごめんって。

    朝美:まぁでも、颯太が寝坊するのも予想してたけどね。

    颯太:まじで?

    朝美:まじで。

    朝美:あらゆる事態を想定して予定を組みました。

    颯太:おぉ、デキる女っぽい。

    朝美:ふふん。

    颯太:さすが! 合理主義の鏡。

    朝美:……それ合理主義関係なくない?

    颯太:そう?

    朝美:そうでしょ。

    颯太:そっか。

    朝美:んもー、しっかりしてよー。仮にも脚本家なんだから。

    颯太:仮にもって……。

    朝美:あ、間違えた。売れない脚本家だった。

    颯太:うるせー(笑う)。

    朝美:(笑う)
    朝美:あ、ねぇねぇ、鎌倉舞台に1本書いたら?

    颯太:えー。

    朝美:季節は春で~……どんなのがいいかなぁ~。

    颯太:いや、鎌倉つったら梅雨だろ。

    朝美:えー、いいじゃん春。桜舞う鎌倉。

    颯太:えー。

    朝美:だってさー、こんなに綺麗だよ。
    朝美:それに、売れるには人と違うことしないと。

    颯太:知った風によく言う。

    朝美:(笑う)。あーでも、それで売れたら、
    朝美:春の鎌倉・親善大使とか、オファーきちゃうかもよ?

    颯太:なんだよそれ。

    朝美:一躍有名作家!

    颯太:(笑う)。タイトルは?

    朝美:えータイトル?

    颯太:うん。

    朝美:んー『四月の桜』!

    颯太:ぶっ(吹き出す)。ダサ。

    朝美:えー。

    颯太:それ『十月の朝顔』のパクリじゃん。

    朝美:自作だしパクリじゃないでしょ?
    朝美:シリーズものみたいにしなよ。

    颯太:やーだよ。

    朝美:えー。

    颯太:前言っただろ。タイトルださいって叩かれたって。

    朝美:そうだっけ?

    颯太:そうだよ。
    颯太:しかも『四月の桜』なんて、『十月の朝顔』よりダサい。

    朝美:そんなことないでしょ~?

    颯太:そんなことありますー。大ありです~。

    朝美:……ぷっ、変な顔。

    颯太:はぁ?

    朝美:……(笑う)。

    颯太:(笑う)。

    朝美:うわぁ、すごい。ねー、桜のアーチ!
    朝美:突発できたけど、すごい良いタイミングだったね~。
    朝美:平日で人も少ないし。よかったー。

    颯太M:雲一つない真っ青な空に、桜が舞った。
    颯太M:ツンと鼻の奥が痛むのは、来年の春、
    颯太M:彼女が隣にいないことを、分かっているからだろうか。

    0:   間。

    朝美:うわぁ、すご……。
    朝美:なんかねー、ネットで見たんだけど、
    朝美:この桜のアーチ、天国みたいって書いてる人いた。

    颯太:へー。

    朝美:天国ってこんななのかな?

    颯太:さぁ。

    朝美:さぁって……。

    颯太:見たことねーし。

    朝美:……脚本家なんだからもっと夢膨らませてよ。

    颯太:残念ながら売れない脚本家なんで。

    朝美:んーもう。

    颯太:……。

    朝美:あ、そいえばさ、編集の早紀ちゃん。

    颯太:紺野さん?

    朝美:うんうん。

    颯太:何、仲良くなったの?

    朝美:うん。颯太最近コラム書いてるじゃん?

    颯太:あぁうん。

    朝美:それでちょくちょく家来るじゃない? お茶出してるうちに仲良くなった。

    颯太:無理に話合わせてもらってんじゃなくて?

    朝美:もーなんでそういう言い方するかなぁ~。

    颯太:(笑う)。ごめん。

    朝美:ってか私に気使って家来てもらってるでしょ?

    颯太:病気の嫁放り出してどっか行くほど薄情じゃないんで。

    朝美:んもー何その言い方。

    颯太:……。

    朝美:平気だよ。ずっと家いなくても。
    朝美:お義母さんも気にかけてくれてるし、まだちゃんと身体動くし、物忘れも、たまにだし。

    颯太:練馬の駅で泣きそうになりながら、帰り道わかんない~って電話かけてきたの誰ですか。

    朝美:あ……はは。……忘れた。

    颯太:都合よく忘れんなバカ。覚えてんだろーが。

    朝美:(小さく笑う)。

    颯太M:朝美の病気は、徐々に記憶を失っていくものだった。
    颯太M:手足の自由が利かなくなり、そして、すべてを忘れてしまう。

    颯太:……んで、紺野さんがどうしたの?

    朝美:あ、早紀ちゃんの彼氏がね~、写真やってるんだってー。

    颯太:へー。

    朝美:岩倉祐樹(いわくらゆうき)。知ってる?

    颯太:いや、知らない。

    朝美:だよねー。私も知らなかった。あ、でもね一部では有名みたい。

    颯太:ふーん。

    朝美:ほら、見て。SNSも結構フォロワーいる。

    颯太:え、俺よりいるじゃん。

    朝美:ふふ。颯太はもっと外に向けて活動しないとねー。

    颯太:はいはい、アドバイスどーも。

    朝美:んもう! いつも私の話適当に聞いてるでしょ?

    颯太:はぁ? 1番真面目に聞いてますけど。

    朝美:ぶー。

    颯太:……変な顔。(笑う)

    朝美:(笑う)。

    颯太:んで? その人がどうしたの。

    朝美:あ、んでね、その人目白で個展してて、
    朝美:早紀ちゃん友達の付き添いで行く予定だったらしいんだけど、友達ドタキャンで。

    颯太:うん。

    朝美:渋々一人で行ったら、そこで出会って意気投合だって。

    颯太:へー安いドラマ1本書けそう。

    朝美:でしょ? すごいよね~。

    颯太:せんべろで口説いた俺と大違い。

    朝美:自分で言わないで。

    颯太:(笑う)。

    朝美:あ、それでね、写真撮って~ってお願いしたら、いいよーって言われた!

    颯太:何? 朝美の写真?

    朝美:一人で撮るわけないじゃん。遺影じゃあるまいし。

    颯太:笑えねーんですけど。

    朝美:笑うとこそこは。

    颯太:あははははは(棒読み)。

    朝美:なにその乾いた笑い。

    颯太:笑うとこって言われたから。

    朝美:もう。……ってかそうじゃなくて!
    朝美:早紀ちゃんの彼氏がね、私たち二人の写真撮ってくれるって。

    颯太:へー。

    朝美:えーなんでそんな反応薄いの?

    颯太:あんま写真得意じゃないの知ってるだろ。

    朝美:あぁ……。まぁ。
    朝美:でもほら折角プロが撮ってくれるって言ってるし、撮ってもらおうよ~。ね?

    颯太:……撮りたいな~、写真。撮りたいな~。

    朝美:もーすぐバカにする!

    颯太:あはは、まぁ写真くらいいいけど。

    朝美:ほんと?

    颯太:うん。

    朝美:ありがとー。ふふ。まずはそのぼさぼさの髪切らないとだね。

    颯太:はぁ? これはぼさぼさじゃなくて、この長さにしてパーマかけてるの。

    朝美:えー。そうなの?

    颯太:「そうなの?」って今までぼさぼさだと思ってたの?

    朝美:うん。

    颯太:うんって……。

    朝美:うーそー。パーマかけてるの知らないわけないじゃん。

    颯太:はぁ?

    朝美:(笑う)。

    颯太:ったく……。

    朝美:あ、そーだ。お義母さんたちにもお土産買って帰ろ。何がいいかなぁ~。

    颯太:てきとーにその辺の饅頭で良いんじゃん?

    朝美:(笑う)、温泉じゃないんだから……。

    颯太M:彼女は、私のことなんて忘れて生きろと言うくせに、写真を撮ろうと言った。
    颯太M:その残酷さに、気付いているのだろうか。

    朝美:颯太、ねぇ……。

    颯太:……。

    朝美:颯太ってば。

    颯太:あ、ごめん。ぼーっとしてた。

    朝美:大丈夫?

    颯太:うん。

    朝美:やっぱり運転疲れた?

    颯太:大丈夫だよ。

    朝美:そっか。……ねぇ、颯太。

    颯太:んー?

    朝美:すごいね、桜。天国みたい。

    颯太:……あぁ。

    朝美:ねぇ颯太……。

    颯太:んー?

    朝美:最近ちゃんとご飯食べてる?

    颯太:食べてるよ。

    朝美:昨日は?

    颯太:え?

    朝美:昨日は、何食べたの?

    颯太:……。

    颯太M:これは、夢だ。

    朝美:ねー、ちょっと痩せたんじゃない?

    颯太:……。

    颯太M:春の鎌倉でこんな会話はしていない。
    颯太M:これは、俺が見ている、都合の良い夢だ。

    朝美:元々ひょろひょろなんだから。ちゃーんと食べないとだめだよ。

    颯太:……。

    颯太M:俺の妻は、酷く薄情な女だった。
    颯太M:自分だけ都合よく何もかも忘れて、俺に忘れろと言い残し、去年の暮れに死んだ。

    朝美:颯太~、聞いてる?

    颯太:……。

    颯太M:朝美は、死んだ……。(徐々に泣く)
    颯太M:俺を忘れた彼女に、何度も、何度も、何度も何度も自己紹介をした。

    朝美:んも~颯太?

    颯太:死んだんだ。

    朝美:え?

    颯太:朝美は、死んだんだよ。

    朝美:……。

    颯太:……なぁ、朝美。

    朝美:なぁに?

    颯太:……朝美。

    朝美:なぁに、何回も呼ばなくても聞こえてるよ。

    颯太:朝美……。

    朝美:……なぁに。

    颯太:味がしないんだ。

    朝美:えー。どうしたの風邪ひいた?
    朝美:また酔っぱらってパンツで寝てたらだめだよ~?

    颯太:うん。
    颯太:……朝美。

    朝美:なぁに?

    颯太:書けないんだ。何も……。

    朝美:春の鎌倉は?

    颯太:書けない。

    朝美:どうして? こんなに綺麗なのに。

    颯太:書けないんだ。

    朝美:食い倒れツアーとかでもいいんじゃん?
    朝美:しらすの釜めしに、小町通りのお団子、あと、クレープに……他に何食べたっけ?
    朝美:あー、それから寝坊した話も書けば?

    颯太:……書けない。

    朝美:書いたら後悔とか色々忘れる~って言ってたじゃん。

    颯太:書けないんだよ!

    朝美:……。

    颯太:……書けないんだ。

    朝美:じゃあ新しい仕事探さなきゃねー。

    颯太:……もういいんだ。

    朝美:えー。

    颯太:……もう、いいんだ。

    朝美:……。
    朝美:ねぇ。颯太。だめだよ。死んだらだめ。
    朝美:だって私今こっちでいい男探してるんだから。勝手に来ないで。

    颯太:……薄情だな。

    朝美:でしょ。だから……だからさ、(颯太食い気味に次のセリフ)

    颯太:また忘れろって言うのか? 無理なんだよ!

    朝美:……。

    颯太:忘れたくてもさ、忘れようとしたってさ。無理なんだよ……。
    颯太:朝起きたら、また下手くそな料理してんじゃねーかなって。

    朝美:うん。

    颯太:文字書いてても、売れない脚本家って言って、お前が笑うんだよ。

    朝美:……。

    颯太:都合よく自分だけ全部忘れて、それで、忘れろってさ、俺の気持ちはどうすんだよ。

    朝美:ごめん。

    颯太:……。

    朝美:ごめんね。

    颯太:ほんと、勝手なんだよ。

    朝美:……ねぇ、颯太。私酷いこと言ったね。忘れろ~って。

    颯太:うん。

    朝美:ごめんね。

    颯太:うん。

    朝美:思い出にしてね~って言えばよかった。

    颯太:……。

    朝美:忘れようとしたって、忘れられないもんね。

    朝美:でもさ、きっとそのうち、思い出になるから。
    朝美:だってさ、生きるってそういうことだもん。
    朝美:色んなこと手放していくの。楽しいことも、辛いことも……。ちょっとずつ、ちょっとずつ。
    朝美:だから、大丈夫。

    颯太:うん。

    朝美:ねぇ、颯太。
    朝美:私覚えてるよ。何回も、何回も言ってくれたこと。

    朝美:君は……。

    颯太:君は鈴木朝美。俺の奥さん。

    朝美:うん。

    颯太:合理主義で、要領がいい、稼ぎも文句なしの、元キャリアウーマン。

    颯太:好きなものは、俺の作った甘い出し巻き卵。

    朝美:うん……。

    颯太:それから薄情で、ひどい女。

    朝美:……(笑う)でしょ? だから、思い出にして。
    朝美:大丈夫。ちゃんと、思い出になるから。大丈夫。

    颯太:……。

    朝美:忘れろ~なんて言って、ごめんね。

    颯太:うん。

    朝美:勝手に忘れてごめんね。

    颯太:……うん。

    朝美:颯太、ありがとうって、ちゃんと伝えなくてごめんね。

    颯太:……うん。
    颯太:朝美……。

    朝美:ん?

    颯太:天国ってこんな感じだった?

    朝美:うーん。どうだろ、まだ内緒かなぁ。
    朝美:お爺ちゃんになった時のお楽しみ。

    颯太:そっか。

    朝美:うん。
    朝美:あーそう言えば、朝顔やっぱだめだね。

    颯太:……?

    朝美:だって、忘れられないもん。思い出にはできるけど。
    朝美:やっぱり颯太は売れない脚本家だ~。

    颯太:ばーか、元々思い出にするって意味で書いてんだよ。

    朝美:……そっか。じゃあ天才だ。

    颯太:……ごめんな、朝美。
    颯太:忘れろって言ったのも、優しさだって分かってたんだ。

    朝美:うん。

    颯太:分かってたんだ、ほんとは……。

    朝美:うん。

    颯太:……。

    朝美:残される方が辛いから、だから前を向くために、僕は君を忘れて生きていく。
    朝美:『十月の朝顔』、鈴木颯太。ね? (背を押すように)

    颯太:……よくまんま覚えてんな。

    朝美:だって、ファンだもん。

    朝美:君は、鈴木颯太。私の大好きだった人。
    朝美:職業は、天才脚本家。

    颯太:……うん。

    朝美:もう、大丈夫?

    颯太:うん。

    朝美:そっか。それじゃぁ、そろそろ行くね?

    颯太:……うん。

    朝美:ばいばい。颯太、ありがとう。

    0:   間。

    颯太M:春の鎌倉が繋いだ彼女との時間は、夢か現(うつつ)か幻か。
    颯太M:雲一つない真っ青な空に、桜が舞った。
    颯太M:
    颯太M:人は、大切なものほど、忘れることなど出来はしないのだ。
    颯太M:楽しいことも、辛いことも、ひとつひとつ、手放して、思い出にして。そうやって生きていく。
    颯太M:
    颯太M:写真の中の彼女は、今日も楽しそうに笑っていた。いつかこれも思い出になるだろう。

    0:   颯太、写真を見ながら。

    颯太:なぁ、朝美……。
    颯太:今年ももうすぐ、春がくるよ。

    /:   2部『夢か現か幻か』 完

     

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    https://hudesaki.com/asagao/feed 0 2193
    【声劇台本2人】夢か現か幻か【1:1・30分】 https://hudesaki.com/23-3 https://hudesaki.com/23-3#respond Tue, 02 Mar 2021 14:05:55 +0000 https://hudesaki.com/?p=2156 春の鎌倉が繋いだ彼女との時間は、夢か現か幻か。
    雲一つない真っ青な空に、桜が舞った。

    〇文字数:約5500文字

    〇推定時間:20~30分

    〇登場人物:1:1

    鈴木颯太(そうた):35歳。売れない脚本家。言葉遣いが少々粗い。

    鈴木朝美(あさみ):33歳。家事全般嫌い。合理主義。病気を患っている。

    〇その他 0⇒ト書き

    十月の朝顔のシリーズシナリオです。

    作者解釈など以下にまとめました。興味があれば。

    『十月の朝顔』と『夢か現か幻か』についてあとがきさて、ついこの間ですね、十月の朝顔のシリーズ『夢か現か幻か』放出しおわったのでつらつらnote第3弾書いていこうかな~と。 もともと春...

    シリーズ1作目

    【声劇台本2人】十月の朝顔【1:1・30分】残される方が辛いから、だから前を向くために、 僕は君を忘れて生きていく 〇文字数:約9000文字 〇推定時間:30~40分 ...

    夢か現か幻か/筆先ちひろ

    0:   季節・春。
    0:   颯太、朝美。自宅。

    朝美:颯太~、おーはーよ。

    颯太:……。

    朝美:ね~起きて。

    颯太M:随分と懐かしい声を聞いた気がした。

    0:   間。

    朝美:んもー何時だと思ってるのー! 起きて。

    颯太:んー……。

    朝美:起きてってば!

    颯太:んーもう少し……。

    朝美:何言ってんの、もう8時だってば!

    颯太:え⁈

    朝美:「え⁈」じゃなくて!

    颯太:レンタカー何時だっけ?

    朝美:9時!

    颯太:ああああ……。

    朝美:「ああああ……」じゃなくて!
    朝美:もー、早くシャワー浴びてきて! 早く、ほら。

    颯太:あぁぁぁぁ……。

    颯太M:そうだ。あの日、確か俺は寝坊をして。

    0:   間。
    0:   朝美、颯太、車内。

    朝美:んもー、行きたいところいーっぱいあるって言ったのに~。

    颯太:ごめんって。

    朝美:しらすの釜めし……。

    颯太:……。

    朝美:小町通りのお団子。
    朝美:クレープに、厚揚げに。鎌倉野菜のカレー。

    颯太:全部食い物じゃん。

    朝美:悪い?

    颯太:いや、悪くねーです。はい。

    颯太M:朝美に小言を言われながら、春の東名高速を走った。
    颯太M:レンタカー独特の、キツイ芳香剤の香りを今でも覚えている。

    朝美:(鼻歌)。

    颯太:なに? ご機嫌?

    朝美:颯太が寝坊したから不機嫌~。

    颯太:えー。

    朝美:うそ。遠出久しぶりだから、楽しい。

    颯太M:楽しそうに景色を追う、彼女の横顔も、まだ、覚えている。

    0:   間。
    0:   朝美、颯太鎌倉にて。

    颯太:大丈夫? 疲れてない?

    朝美:平気~。

    颯太:そっか。

    朝美:うん。颯太こそ、運転で疲れたんじゃない?

    颯太:まぁほどほどに。

    朝美:えー、大丈夫?

    颯太:どっかの誰かさんが車で連れてけーって言うから。

    朝美:えー、どっかの誰かさんって誰だろ。

    颯太:朝っぱらから起きろ起きろってうるさい誰かさん。

    朝美:それは颯太が寝坊するからでしょ~。

    颯太:あはは、ごめん。

    朝美:(笑う)。

    颯太:行きたいな~鎌倉。行きたいな~。車で行きたいな~。

    朝美:えー何それ、私のマネ?

    颯太:そう。似てた?

    朝美:似てないよー。

    颯太:あれー、おかしいな。
    颯太:(咳払い)、行きたいなー鎌倉、行きたいなぁー。

    朝美:もー違うって。行きたいな~鎌倉。行きたいなぁー。

    颯太:行きたいなぁ~。鎌倉、行きたいなぁー。(弄るように)

    朝美:バカにしてるでしょ?

    颯太:(笑う)。天気よくてよかったなー。

    朝美:あーもー話逸らすー。

    颯太:(笑う)。

    颯太M:人というのは声から忘れていくらしい。
    颯太M:いずれ忘れてしまうのだろうか。この声も。

    朝美:ほんとに天気よくてよかった。やっぱ日ごろの行いかな~。

    颯太:俺頑張ってるもんなー。

    朝美:えー私の行いがいいからでしょ~?

    颯太:はぁ?

    朝美:「はぁ?」って……。
    朝美:今朝だって私早起きしたし、ご飯も作ったし。

    颯太:あー……。

    朝美:寝坊してレンタカーの時間ギリギリだったの誰のせいだろ~。

    颯太:ごめんって。

    朝美:まぁでも、颯太が寝坊するのも予想してたけどね。

    颯太:まじで?

    朝美:まじで。

    朝美:あらゆる事態を想定して予定を組みました。

    颯太:おぉ、デキる女っぽい。

    朝美:ふふん。

    颯太:さすが! 合理主義の鏡。

    朝美:……それ合理主義関係なくない?

    颯太:そう?

    朝美:そうでしょ。

    颯太:そっか。

    朝美:んもー、しっかりしてよー。仮にも脚本家なんだから。

    颯太:仮にもって……。

    朝美:あ、間違えた。売れない脚本家だった。

    颯太:うるせー(笑う)。

    朝美:(笑う)
    朝美:あ、ねぇねぇ、鎌倉舞台に1本書いたら?

    颯太:えー。

    朝美:季節は春で~……どんなのがいいかなぁ~。

    颯太:いや、鎌倉つったら梅雨だろ。

    朝美:えー、いいじゃん春。桜舞う鎌倉。

    颯太:えー。

    朝美:だってさー、こんなに綺麗だよ。
    朝美:それに、売れるには人と違うことしないと。

    颯太:知った風によく言う。

    朝美:(笑う)。あーでも、それで売れたら、
    朝美:春の鎌倉・親善大使とか、オファーきちゃうかもよ?

    颯太:なんだよそれ。

    朝美:一躍有名作家!

    颯太:(笑う)。タイトルは?

    朝美:えータイトル?

    颯太:うん。

    朝美:んー『四月の桜』!

    颯太:ぶっ(吹き出す)。ダサ。

    朝美:えー。

    颯太:それ『十月の朝顔』のパクリじゃん。

    朝美:自作だしパクリじゃないでしょ?
    朝美:シリーズものみたいにしなよ。

    颯太:やーだよ。

    朝美:えー。

    颯太:前言っただろ。タイトルださいって叩かれたって。

    朝美:そうだっけ?

    颯太:そうだよ。
    颯太:しかも『四月の桜』なんて、『十月の朝顔』よりダサい。

    朝美:そんなことないでしょ~?

    颯太:そんなことありますー。大ありです~。

    朝美:……ぷっ、変な顔。

    颯太:はぁ?

    朝美:……(笑う)。

    颯太:(笑う)。

    朝美:うわぁ、すごい。ねー、桜のアーチ!
    朝美:突発できたけど、すごい良いタイミングだったね~。
    朝美:平日で人も少ないし。よかったー。

    颯太M:雲一つない真っ青な空に、桜が舞った。
    颯太M:ツンと鼻の奥が痛むのは、来年の春、
    颯太M:彼女が隣にいないことを、分かっているからだろうか。

    0:   間。

    朝美:うわぁ、すご……。
    朝美:なんかねー、ネットで見たんだけど、
    朝美:この桜のアーチ、天国みたいって書いてる人いた。

    颯太:へー。

    朝美:天国ってこんななのかな?

    颯太:さぁ。

    朝美:さぁって……。

    颯太:見たことねーし。

    朝美:……脚本家なんだからもっと夢膨らませてよ。

    颯太:残念ながら売れない脚本家なんで。

    朝美:んーもう。

    颯太:……。

    朝美:あ、そいえばさ、編集の早紀ちゃん。

    颯太:紺野さん?

    朝美:うんうん。

    颯太:何、仲良くなったの?

    朝美:うん。颯太最近コラム書いてるじゃん?

    颯太:あぁうん。

    朝美:それでちょくちょく家来るじゃない? お茶出してるうちに仲良くなった。

    颯太:無理に話合わせてもらってんじゃなくて?

    朝美:もーなんでそういう言い方するかなぁ~。

    颯太:(笑う)。ごめん。

    朝美:ってか私に気使って家来てもらってるでしょ?

    颯太:病気の嫁放り出してどっか行くほど薄情じゃないんで。

    朝美:んもー何その言い方。

    颯太:……。

    朝美:平気だよ。ずっと家いなくても。
    朝美:お義母さんも気にかけてくれてるし、まだちゃんと身体動くし、物忘れも、たまにだし。

    颯太:練馬の駅で泣きそうになりながら、帰り道わかんない~って電話かけてきたの誰ですか。

    朝美:あ……はは。……忘れた。

    颯太:都合よく忘れんなバカ。覚えてんだろーが。

    朝美:(小さく笑う)。

    颯太M:朝美の病気は、徐々に記憶を失っていくものだった。
    颯太M:手足の自由が利かなくなり、そして、すべてを忘れてしまう。

    颯太:……んで、紺野さんがどうしたの?

    朝美:あ、早紀ちゃんの彼氏がね~、写真やってるんだってー。

    颯太:へー。

    朝美:岩倉祐樹(いわくらゆうき)。知ってる?

    颯太:いや、知らない。

    朝美:だよねー。私も知らなかった。あ、でもね一部では有名みたい。

    颯太:ふーん。

    朝美:ほら、見て。SNSも結構フォロワーいる。

    颯太:え、俺よりいるじゃん。

    朝美:ふふ。颯太はもっと外に向けて活動しないとねー。

    颯太:はいはい、アドバイスどーも。

    朝美:んもう! いつも私の話適当に聞いてるでしょ?

    颯太:はぁ? 1番真面目に聞いてますけど。

    朝美:ぶー。

    颯太:……変な顔。(笑う)

    朝美:(笑う)。

    颯太:んで? その人がどうしたの。

    朝美:あ、んでね、その人目白で個展してて、
    朝美:早紀ちゃん友達の付き添いで行く予定だったらしいんだけど、友達ドタキャンで。

    颯太:うん。

    朝美:渋々一人で行ったら、そこで出会って意気投合だって。

    颯太:へー安いドラマ1本書けそう。

    朝美:でしょ? すごいよね~。

    颯太:せんべろで口説いた俺と大違い。

    朝美:自分で言わないで。

    颯太:(笑う)。

    朝美:あ、それでね、写真撮って~ってお願いしたら、いいよーって言われた!

    颯太:何? 朝美の写真?

    朝美:一人で撮るわけないじゃん。遺影じゃあるまいし。

    颯太:笑えねーんですけど。

    朝美:笑うとこそこは。

    颯太:あははははは(棒読み)。

    朝美:なにその乾いた笑い。

    颯太:笑うとこって言われたから。

    朝美:もう。……ってかそうじゃなくて!
    朝美:早紀ちゃんの彼氏がね、私たち二人の写真撮ってくれるって。

    颯太:へー。

    朝美:えーなんでそんな反応薄いの?

    颯太:あんま写真得意じゃないの知ってるだろ。

    朝美:あぁ……。まぁ。
    朝美:でもほら折角プロが撮ってくれるって言ってるし、撮ってもらおうよ~。ね?

    颯太:……撮りたいな~、写真。撮りたいな~。

    朝美:もーすぐバカにする!

    颯太:あはは、まぁ写真くらいいいけど。

    朝美:ほんと?

    颯太:うん。

    朝美:ありがとー。ふふ。まずはそのぼさぼさの髪切らないとだね。

    颯太:はぁ? これはぼさぼさじゃなくて、この長さにしてパーマかけてるの。

    朝美:えー。そうなの?

    颯太:「そうなの?」って今までぼさぼさだと思ってたの?

    朝美:うん。

    颯太:うんって……。

    朝美:うーそー。パーマかけてるの知らないわけないじゃん。

    颯太:はぁ?

    朝美:(笑う)。

    颯太:ったく……。

    朝美:あ、そーだ。お義母さんたちにもお土産買って帰ろ。何がいいかなぁ~。

    颯太:てきとーにその辺の饅頭で良いんじゃん?

    朝美:(笑う)、温泉じゃないんだから……。

    颯太M:彼女は、私のことなんて忘れて生きろと言うくせに、写真を撮ろうと言った。
    颯太M:その残酷さに、気付いているのだろうか。

    朝美:颯太、ねぇ……。

    颯太:……。

    朝美:颯太ってば。

    颯太:あ、ごめん。ぼーっとしてた。

    朝美:大丈夫?

    颯太:うん。

    朝美:やっぱり運転疲れた?

    颯太:大丈夫だよ。

    朝美:そっか。……ねぇ、颯太。

    颯太:んー?

    朝美:すごいね、桜。天国みたい。

    颯太:……あぁ。

    朝美:ねぇ颯太……。

    颯太:んー?

    朝美:最近ちゃんとご飯食べてる?

    颯太:食べてるよ。

    朝美:昨日は?

    颯太:え?

    朝美:昨日は、何食べたの?

    颯太:……。

    颯太M:これは、夢だ。

    朝美:ねー、ちょっと痩せたんじゃない?

    颯太:……。

    颯太M:春の鎌倉でこんな会話はしていない。
    颯太M:これは、俺が見ている、都合の良い夢だ。

    朝美:元々ひょろひょろなんだから。ちゃーんと食べないとだめだよ。

    颯太:……。

    颯太M:俺の妻は、酷く薄情な女だった。
    颯太M:自分だけ都合よく何もかも忘れて、俺に忘れろと言い残し、去年の暮れに死んだ。

    朝美:颯太~、聞いてる?

    颯太:……。

    颯太M:朝美は、死んだ……。(徐々に泣く)
    颯太M:俺を忘れた彼女に、何度も、何度も、何度も何度も自己紹介をした。

    朝美:んも~颯太?

    颯太:死んだんだ。

    朝美:え?

    颯太:朝美は、死んだんだよ。

    朝美:……。

    颯太:……なぁ、朝美。

    朝美:なぁに?

    颯太:……朝美。

    朝美:なぁに、何回も呼ばなくても聞こえてるよ。

    颯太:朝美……。

    朝美:……なぁに。

    颯太:味がしないんだ。

    朝美:えー。どうしたの風邪ひいた?
    朝美:また酔っぱらってパンツで寝てたらだめだよ~?

    颯太:うん。
    颯太:……朝美。

    朝美:なぁに?

    颯太:書けないんだ。何も……。

    朝美:春の鎌倉は?

    颯太:書けない。

    朝美:どうして? こんなに綺麗なのに。

    颯太:書けないんだ。

    朝美:食い倒れツアーとかでもいいんじゃん?
    朝美:しらすの釜めしに、小町通りのお団子、あと、クレープに……他に何食べたっけ?
    朝美:あー、それから寝坊した話も書けば?

    颯太:……書けない。

    朝美:書いたら後悔とか色々忘れる~って言ってたじゃん。

    颯太:書けないんだよ!

    朝美:……。

    颯太:……書けないんだ。

    朝美:じゃあ新しい仕事探さなきゃねー。

    颯太:……もういいんだ。

    朝美:えー。

    颯太:……もう、いいんだ。

    朝美:……。
    朝美:ねぇ。颯太。だめだよ。死んだらだめ。
    朝美:だって私今こっちでいい男探してるんだから。勝手に来ないで。

    颯太:……薄情だな。

    朝美:でしょ。だから……だからさ、(颯太食い気味に次のセリフ)

    颯太:また忘れろって言うのか? 無理なんだよ!

    朝美:……。

    颯太:忘れたくてもさ、忘れようとしたってさ。無理なんだよ……。
    颯太:朝起きたら、また下手くそな料理してんじゃねーかなって。

    朝美:うん。

    颯太:文字書いてても、売れない脚本家って言って、お前が笑うんだよ。

    朝美:……。

    颯太:都合よく自分だけ全部忘れて、それで、忘れろってさ、俺の気持ちはどうすんだよ。

    朝美:ごめん。

    颯太:……。

    朝美:ごめんね。

    颯太:ほんと、勝手なんだよ。

    朝美:……ねぇ、颯太。私酷いこと言ったね。忘れろ~って。

    颯太:うん。

    朝美:ごめんね。

    颯太:うん。

    朝美:思い出にしてね~って言えばよかった。

    颯太:……。

    朝美:忘れようとしたって、忘れられないもんね。

    朝美:でもさ、きっとそのうち、思い出になるから。
    朝美:だってさ、生きるってそういうことだもん。
    朝美:色んなこと手放していくの。楽しいことも、辛いことも……。ちょっとずつ、ちょっとずつ。
    朝美:だから、大丈夫。

    颯太:うん。

    朝美:ねぇ、颯太。
    朝美:私覚えてるよ。何回も、何回も言ってくれたこと。

    朝美:君は……。

    颯太:君は鈴木朝美。俺の奥さん。

    朝美:うん。

    颯太:合理主義で、要領がいい、稼ぎも文句なしの、元キャリアウーマン。

    颯太:好きなものは、俺の作った甘い出し巻き卵。

    朝美:うん……。

    颯太:それから薄情で、ひどい女。

    朝美:……(笑う)でしょ? だから、思い出にして。
    朝美:大丈夫。ちゃんと、思い出になるから。大丈夫。

    颯太:……。

    朝美:忘れろ~なんて言って、ごめんね。

    颯太:うん。

    朝美:勝手に忘れてごめんね。

    颯太:……うん。

    朝美:颯太、ありがとうって、ちゃんと伝えなくてごめんね。

    颯太:……うん。
    颯太:朝美……。

    朝美:ん?

    颯太:天国ってこんな感じだった?

    朝美:うーん。どうだろ、まだ内緒かなぁ。
    朝美:お爺ちゃんになった時のお楽しみ。

    颯太:そっか。

    朝美:うん。
    朝美:あーそう言えば、朝顔やっぱだめだね。

    颯太:……?

    朝美:だって、忘れられないもん。思い出にはできるけど。
    朝美:やっぱり颯太は売れない脚本家だ~。

    颯太:ばーか、元々思い出にするって意味で書いてんだよ。

    朝美:……そっか。じゃあ天才だ。

    颯太:……ごめんな、朝美。
    颯太:忘れろって言ったのも、優しさだって分かってたんだ。

    朝美:うん。

    颯太:分かってたんだ、ほんとは……。

    朝美:うん。

    颯太:……。

    朝美:残される方が辛いから、だから前を向くために、僕は君を忘れて生きていく。
    朝美:『十月の朝顔』、鈴木颯太。ね? (背を押すように)

    颯太:……よくまんま覚えてんな。

    朝美:だって、ファンだもん。

    朝美:君は、鈴木颯太。私の大好きだった人。
    朝美:職業は、天才脚本家。

    颯太:……うん。

    朝美:もう、大丈夫?

    颯太:うん。

    朝美:そっか。それじゃぁ、そろそろ行くね?

    颯太:……うん。

    朝美:ばいばい。颯太、ありがとう。

    0:   間。

    颯太M:春の鎌倉が繋いだ彼女との時間は、夢か現(うつつ)か幻か。
    颯太M:雲一つない真っ青な空に、桜が舞った。
    颯太M:
    颯太M:人は、大切なものほど、忘れることなど出来はしないのだ。
    颯太M:楽しいことも、辛いことも、ひとつひとつ、手放して、思い出にして。そうやって生きていく。
    颯太M:
    颯太M:写真の中の彼女は、今日も楽しそうに笑っていた。いつかこれも思い出になるだろう。

    0:   颯太、写真を見ながら。

    颯太:なぁ、朝美……。
    颯太:今年ももうすぐ、春がくるよ。

    /:   『夢か現か幻か』 完

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    【朗読台本】向こう岸に見た景色【5分】 https://hudesaki.com/mukougishi https://hudesaki.com/mukougishi#respond Wed, 24 Feb 2021 05:22:46 +0000 https://hudesaki.com/?p=2140

    作者:きく twitter

    リンク:湯守のいる宿

    ※こちらは寄稿作品です。台本作者はきく先生です。

    向こう岸に見た景色/きく

    向こう岸で君は笑って手を振っている。

    風が吹くたび、その姿が花吹雪にかき消されてしまうようで、少し不安になる。

    私と君を阻む目の前の浅い川。

    難なく渡って行けそうなのに、足を踏み出すのが怖い。

    対岸の君は、春の真ん中に居る。私の周りは枯れ木に雪が積もっている。

    そちら側に行きたい。けれど、行ったら私はきっと現実に帰れなくなる。

    何となくだが、そう直感したのだ。

    あの世とこの世を別つ神社の鳥居のように、くぐったらその不思議な空間から戻れない。そう感じた。

    「ねえ、どうして君はそちら側に居るの?」

    問いかけても返事はなく、声が届いているかもわからなかった。

    大きな桜の木の傍でそっと佇み、目が合うと手を振る。それを繰り返す。

    無表情ではないが、その一連の動作をずっと見ていると、まるで人形か機械のようにも思えた。

    私の知ってる君であることは間違いないんだろうけれど、違和感は拭えなかった。

    お気に入りだと言っていた赤いカーディガン、そういえばよく着ていたね。

    淡いピンクの花弁と、主張の強い赤い服。背景の濃い緑がまるでアニメーションのように見える。

    切り取って一枚の写真にしたいくらい、色づいている向こう岸。

    色がないこちら側には、何の魅力も感じなかった。だから、行きたいんだ。

    川を渡って君の隣へ行きたいんだ。けれど身体が思うように動かない。

    見えない糸に絡まって、うまく身動きが取れない。そんな表現が正しい。

    何故か急に寂しさを感じた。ずっとここには居られない。これは夢で、目が覚めたら二度とこの光景は見られない。

    私はきっと君がいる向こう岸には行けない。どんどん現実の記憶が蘇る。

    ああ、そうだった。亡くしたモノ全てがここに在る。だからこんなにも美しく見えるんだ。

    煙って暗く見えるこちら側は、喪失感を抱いた私の心そのものなんだと気付く。

    だとすれば、君はいま何の苦痛もなく、幸せで居るのだろう。

    良かった、長い道のりだったね。ようやく重い鎖から解放されたんだね。

    ずいぶんと長い間、そんな笑顔を見ていなかった。そうやってずっと笑顔の君で生きていて欲しい。

    私はだんだんと重くなる瞼に耐え切れず、瞳を閉じた。目覚めた時にはきっと、無機質な部屋に一人で居るのだろう。

    それでもいつか必ず私もそちら側に行くよ。それまでどうか、待っていて欲しい。

    色鮮やかな世界で二人、手を取り合って笑える日まで。

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    【朗読台本】風見鶏が翔ぶ日【5分】 https://hudesaki.com/kazamidori https://hudesaki.com/kazamidori#respond Tue, 23 Feb 2021 07:55:07 +0000 https://hudesaki.com/?p=2133

    作者:どや twitter

    ボイコネ脚本一覧:https://ul.boikone.jp/webview/

    ※作品補足

    海岸沿い。赤い屋根に立つ風見鶏
    自分は飛べると信じている。
    あとは、勇気だけなのだろうか。

    ※こちらは寄稿作品です。台本作者はどや先生です。

    風見鶏が翔ぶ日/どや

    ボクは、いつも
    トンガリ屋根の上から空と海を見ている
    見ているだけ
    ボクは、みんなみたいに飛べないから
    本当は誰よりも遠くへ、
    本当は誰よりも自由に飛び回りたい
    でも
    ボクは、風見鶏
    飛べない鳥

    ある日、スズメのおばさんがやってきて
    そんなに飛びたければ、
    その羽を動かしなさいと言った
    一生懸命動かして、何度も練習して、
    やっと飛べるのよ、と

    ボクは、羽を動かしたことがなかった
    そうか、この羽を動かせば、飛べるんだ
    これでボクも飛べるぞ

    だけど
    どんなに羽を動かそうとしても、この羽は動かない
    命令しても、祈っても、お願いをしても
    とうとう動かなかった
    悩んで、悩んで、立ち尽くしていると
    どうしてこんなことも出来ないのかと
    スズメのおばさんは、
    呆れてどこかにいってしまった

    またある日、カラスのお姉さんがやってきて
    飛びたければ、私の真似をしなさいと言った
    飛べる私の真似をするのが一番の近道よ、と
    目の前で綺麗に飛ぶお姉さんは
    ボクの周りを何周かすると
    さあやってみてとボクに言った
    ボクの体は、風にあわせて右へ左へ揺れるだけ
    命令しても、祈っても、お願いをしても
    とうとう真似できなかった
    カラスのお姉さんは
    小さく首を振ってため息をついた

    かわるがわる、みんなが飛び方を教えてくれた
    そしてみんな去っていった
    ボクは、飛べない
    ボクは、風見鶏

    頑張れば、空しい
    もっと頑張れば、辛い
    もっともっと頑張れば、苦しい。
    もう、飛ぶことは諦めよう
    誰よりも遠くへ飛ぶ夢は、
    誰よりも自由に飛ぶ夢は
    このまま大事にとっておこう
    今日も明日も、
    この屋根の上から楽しく想像するんだ
    あの雲を追い抜く日を

    もう誰も、ボクに飛び方を教えてくれなくなった頃
    カモメのおじさんがやってきてこう言った

    飛びたいのか

    ボクはもう飛ぶことは諦めたんだ
    ボクの言葉が聞こえないのか、おじさんは続けて言った

    飛びたいなら、飛べばいい

    こちらを見ずにのんびりとしゃべり続けるおじさんに
    ボクは腹がたった

    もううんざりなんだ
    ボクはもうやるだけやったんだ。飛びたくて飛びたくて
    どうしても飛びたくて頑張ってきたんだ
    それでも一度も羽は動かない
    簡単な真似事もできない
    ちゃんとやれってみんないうんだ
    ボクはやろうとしてる
    でも何も出来ない
    一歩も前に進めない
    無駄なんだ。
    ボクは飛べない
    だってボクは、風見鶏だから

    どれだけボクがわめいても、
    おじさんは相変わらずのんびりと続けた

    いつも向かい風に立ってきたお前が
    飛べないわけがない
    俺たちはいつも、向かい風に翔ぶ
    立ち向かわなきゃ、追い風はつかめない

    カモメのおじさんは、
    言い終わるとそのまま空高く飛んで行ってしまった
    立ち向かわなきゃ、追い風はつかめない

    ボクは
    いつだって、誰よりも、風に立ち向かってきた
    飛べるんだろうか
    本当に

    ボクは、今日も
    トンガリ屋根の上から空と海を見ている
    見ているだけ
    ボクは、みんなみたいに飛べないから
    本当は誰よりも遠くへ、
    本当は誰よりも自由に飛び回りたい
    でも
    ボクは、風見鶏
    誰よりも向かい風に向かって立つ
    風見鶏

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    https://hudesaki.com/kazamidori/feed 0 2133
    【声劇台本】ラブシチュエーション上司編【1:0・5分】 https://hudesaki.com/jyoushi https://hudesaki.com/jyoushi#respond Sun, 21 Feb 2021 17:45:37 +0000 https://hudesaki.com/?p=2119

    作者:珠白だんご

    ※こちらは寄稿作品です。台本作者は珠白(たましろ)だんご先生です。

    ラブシチュエーション上司編/珠白だんご

    上司:時刻は深夜二時過ぎ。

    上司:私の部屋のベッドには部下が気持ち良さそうに寝息を立てて眠っている。

    上司:そして、その部下は……女性だ。

    上司:会社の飲み会で酔い潰れた部下を家まで送るはずだったのだが、家が何処なのかもわからず、彼女に聞いても何を言ってるのか全く理解が出来なかった為、仕方なく連れて帰ってきた。
    上司:「(深い溜息)…。」

    上司:明日の仕事の書類確認をしながら溜息をつく。

    上司:こんな状況で集中できるはずがない。

    上司:邪(よこしま)な気持ちがあるわけではなく、ただいつも一人でいるこの部屋に自分以外の人間がいるとゆうことに落ち着かない。

    上司:(そういえば、この部屋に人を泊めるのは初めてだな……)

    0:

    上司:そんなことを考えていると彼女が小さく唸り、寝返りを打つ。

    上司:「…なんだ、目が覚めたのか?」

    上司:声をかけても返事はない。

    上司:だが小さな声で何か言っているようにも思えた。

    上司:「具合いでも悪いのか?」

    上司:一旦作業を止め彼女の側へ寄る。

    上司:「大丈夫か?」

    上司:やっぱり返事は返ってこなかった。

    上司:「なんだ、寝言か…?」

    上司:彼女の眠るベッドの端へゆっくり座り顔を覗き込んだ。

    上司:また何か言っている。

    上司:「おい、ほんとに大丈…っ、」

    上司:声をかけようとして言葉を詰まらせた。

    上司:いや、彼女の寝言にどんな意味があったのか、何か夢でも見ているのか、それはわからなかったが……

    上司:一瞬、心臓が大きく音を立てた。

    上司:彼女が、俺の名前を呼んだのだ。

    上司:「な、んだよ…」

    上司:無意識に呟く。

    上司:ベッドの横の小さな灯りがぼんやりと彼女を照らしている。

    上司:部屋には甘い香水の匂いがふわりと充満していて、それがどうしようもなく俺の心を揺さぶった。

    上司:彼女の横に手を着き静かに顔を寄せ、空いた手で細くて柔らかい髪に触れた。

    上司:自分でもこの状況を把握しきれていないのにこれから一体何をしようとしているのか。

    上司:彼女の寝息が自分の顔にかかる程近くなった時、

    上司:彼女の視線とぶつかった。

    上司:「……っ!」

    上司:「……大丈夫、か?」

    上司:「み、水…飲むか?」

    上司:慌ててベッドから立ち上がり、平常心を装って水を取りに行こうとしたが…

    上司:「……っ、」

    上司:彼女が俺の腕を掴んだ。

    上司:「どうした?気分が悪いのか?」

    上司:眉間に皺を寄せ瞳を潤ませながら俺を見つめる彼女に再び心臓は大きく音を立てる。

    上司:そして、彼女は小さな声で「傍にいてください」と言った。

    上司:自分の中で何かが変わる瞬間だった。

    上司:「それは、俺を誘っているのか?」

    上司:「首を振る割には、手は離さないんだな。」

    上司:「今更離しても遅い。」

    上司:「どうして顔を隠すんだ?」

    上司:「その行動全てが逆効果だってわからないでやっているのなら、お前には男を誑(たぶら)かす才能があるな(笑)」

    上司:「…ふふっ、冗談だ。本気にするなよ馬鹿だな。」

    上司:「で……?もう一度聴くが、これは俺を誘っているのか?」

    上司:「そうか、違うのか。それなら俺は作業にもどっ、」

    上司:「………。」

    上司:「どうした?(笑)」

    上司:彼女の行動の一つ一つがたまらなく愛しいと感じていた。

    上司:「無理矢理するのは趣味じゃないんだ。」

    上司:「お前が今、俺と同じ気持ちでいるなら目を閉じろ。」

    上司:「……いいんだな?」

    上司:「後悔するなよ?」

    上司:彼女の前髪を掻き上げて、そのまま彼女へと体重をかける。

    上司:「不思議だな。さっきまで見ていたお前とは全然違って見える。」

    上司:「勘違いするな。可愛くて仕方がないと言っているんだ。」

    上司:「余裕?まさか、そんなものあるわけない。」

    上司:「歯止めがきかなくて壊してしまいそうだ。」

    上司:「……嘘だ。大丈夫、酷くはしない。」

    上司:「だが、夜は長い。」

    上司:「これからゆっくり愛してやる……」

    0:

    上司:ここから先がどうなったかは想像に任せる。

    上司:ただこの部屋には、いつまでも消えることのない甘い香りが残っているとだけ言っておこう。

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